橋本環奈に託された特殊なヒロイン像 『おむすび』は困難に立ち向かう人々を応援し続ける

 西条が、管理栄養士になったのは、母の病気がきっかけだった。自宅療養する母のために栄養士の勉強をはじめた。西条は、固形物のとれない母がラーメンを食べたいと言えば、スープを作り、入院中の結が絶食して内蔵を休めたとき、絶食明けにアイスが食べたいと言えば、凍ったぶどうを用意した。食べたいものにできるだけ近く、体にいいものを工夫できる西条。一方、結が子どものとき、親切におむすびをもってきてくれた人は、冷たいおむすびしか提供できず悔しい気持ちを味わった(と結は思っている)。当時、冷めてもおいしいご飯の炊ける炊飯器があれば、あるいは、あたたかいご飯を提供する工夫や技術があれば……。思いやりだけでなく知識が人を救う。できなかったことから、どうやったらできるのか、考えていくことが生き残った者の使命ではないかと筆者は思った。

 従来の朝ドラであれば、震災でボランティアに向かい、現場で不足していることに毅然と物申し、率先して炊き出しをしたり、被災者のかたをキラキラした眼で励ましたりするのが結の役割、見せ場であろう。それと、西条のエピソードーー結の母か祖母が倒れて、というのも朝ドラヒロインにありそうな展開である。でも、結は、西条の提供してくれた凍ったぶどうに感動し、佳純の話で現場を知るのである。結は、率先してなにかできる人たち以外の、なにかしたいけどできない多くの人たちの代表というヒロインを託されているのだと思う。

 歩(仲里依紗)もまた、なにかしたいのに、何もできないまま菜摘に先を越されてしまうけれど、時間をかけて自分ができることをを見つけてゆっくりながら動き出す。「困難に立ち向かう人」とは被災した方々はもちろん、何もできない自分に苦しんでいる人も含まれるのではないだろうか。何もできないと自分を責めず、自分の生活を、身近な人を守ることも尊いことなのだと思う。生きていればいつか自分の番が来て役に立てることもきっとある。第15週、結がヒロインらしいところは、産休中に社食で結の代わりに働いてくれた青年が、結が復帰したら職を失うのではないかと気遣うところ。いい意味の「米田家の呪い」が発揮された。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、宮崎美子、松平健、佐野勇斗、菅生新樹、松本怜生、中村守里、みりちゃむ、谷藤海咲、岡本夏美、田村芽実ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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