現場のカメラ台数は史上最多級? 『ショウタイムセブン』“撮影の撮影”現場密着レポート
2025年2月7日に公開される映画『ショウタイムセブン』の第1報が10月9日に発表された。ハ・ジョンウが主演、キム・ビョンウが監督を務めた韓国映画『テロ,ライブ』を原作に、オリジナル展開を盛り込んだサスペンスエンターテインメントだ。『テロ,ライブ』は韓国映画ファンを中心に“名作”と呼び声高い作品だけに、楽しみと同時に不安を抱いた方もいるかもしれない。
しかし、主演を務める阿部寛を中心としたキャスト陣、そして、脚本・監督を務める渡辺一貴の手腕を知っている方ならば「間違いない!」とも思ったはず。リアルサウンド映画部では、第1報の発表から遡ること数カ月前に行われていた撮影現場に密着。本稿では、プロデューサー・井手陽子のコメントも交えながら『ショウタイムセブン』撮影の裏側を紹介する。
まず、『テロ,ライブ』を原案とした狙いについて、井手プロデューサーは次のように明かす。
「公開時にいち観客としてとても面白い作品と思っていました。当時も『日本でやったらどうなんだろう?』とは考えていたのですが、映画にしたいと思ったのは、それから数年が経ってからでした。SNSが普及し、メディアの形がどんどん変化していく中で、発信する側とそれを受け取る側の関係性は『テロ,ライブ』が公開された2013年とは大きく変わりました。それぞれの存在は、影響を与え合い、良きも悪きも大きな力を生んでいます。韓国社会と日本社会は当然違いますし、時代も違う。それならばそのまんまを“リメイク”するのではなく、コンセプトを活かし、日本の今作るべきものとして、新たに作り出せないかと。いま映画化することで、メディアや情報との向き合いを考えるきっかけになるとも感じましたし、そういったものを抜きに誰もが楽しめるエンタメの醍醐味が詰まった作品にもできると思い、本作を企画しました」
本作の主人公は、元国民的人気キャスターの折本眞之輔(阿部寛)。彼は不祥事を起こし、現在はラジオ局に左遷されていた。ある日、折本のラジオ番組にかかってきた謎の男から電話が。その直後、発電所で爆破事件が発生。さらに、折本自身が犯人から交渉人として指名されるという前代未聞の事態に。折本は左遷先のラジオ局での不遇を挽回しようと、ニュース番組「ショウタイム7」生放送のスタジオに飛び込み、犯人との生中継に挑む。しかし、そのスタジオにもまた爆弾が仕掛けられていた。一歩でも外に出れば爆発するという極限の状況の中、犯人の要求は次々とエスカレートし、仕掛けられた数々の罠が折本を追い詰めていく。なぜ彼は指名されたのか? 犯人の真の目的とは? 折本の一言ひとことが生死を分け、全国民の目がリアルタイムでそのドラマを見守る中、彼は答えを見つけ出せるのか。
撮影現場に入って驚かされたのは、本作の舞台となる放送局「NJB」のスタジオの完成度。ニュース番組「ショウタイム7」の撮影を行うためのスタジオとして作られた現場は、実際に現実世界でそのままこのセットを使用してニュース番組の撮影が行われていても、まったく違和感がないクオリティだった。筆者は何度か民放各局のニュース番組の現場に同席したことがあるが、これが映画の撮影現場と言われなければ、そのままどこかの番組を利用しているのかと思うほど。
そして、本作の現場の特殊さは「撮影を撮影」しているところにある。物語は主人公・折本が交渉人となり、生中継で放送されているニュース番組「ショウタイム7」の中で犯人との会話を中心に展開されていく。つまり、「ショウタイム7」の撮影と、映画『ショウタイムセブン』の撮影を同時に行っているわけだ。その結果、現場には驚くほどのカメラとモニターの数が。自ずとカメラマンやADなどスタッフも通常の現場の倍の人数に。傍から見ると、“映画”のスタッフなのか“番組”のスタッフなのか、まったく分からない。実際、番組スタッフには普段TV番組を担当している本職のスタッフが起用されているという。
そのほか、カメラが映さないであろうスタジオの入口やスタッフ待機スペースにまで、「ショウタイム7」のスケジュール表が貼られていたり、ロゴをあしらった番組ポスターが作られていたり、細部の細部まで作り込まれていることが伺えた。現場に漂っていた濃厚な緊張感も、“リアル”なニュース番組を作っているからこそ生まれたものだろう。
脚本・監督を務める渡辺一貴の抜擢も、この“リアル”を意識していたからだと井手プロデューサーは語る。
「実際にテレビ番組を作った経験がある方、加えて限られた空間の中で会話劇をリアルかつエンタメに昇華できる方は誰かと考えたときに、渡辺監督はピッタリだと思い依頼いたしました。『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』でご一緒させていただいた縁もあり、ダメ元で『社会風刺的な側面もある作品なのですが……』と相談しに行ったら、「そういう作品は大好きです!」とおっしゃってくださって。脚本も自ら執筆くださって、当初想像していたよりもはるか上の作品に仕上げてくださいました」
そして、現場の空気を牽引していたのが主演の阿部だ。携帯を取り出す何気ない所作から、目の動かし方、発声の在り方など、渡辺監督との対話を重ね芝居のディティールを詰めていた。阿部演じる折本が今何を考え、どう行動するかを観客はリアルタイムで見つめていく。極端に言えば、阿部の芝居ありきで本作は進んでいくといえるのだ。