染谷将太、『劇場版ドクターX』“転調”の役割を担う ラスボスとしての貫禄と説得力
では、実際に本作に刻まれた彼のパフォーマンスはどうなのか。これは医療ドラマなのだから、やはり主として動くのは比呂人である。物語前半のサイコパスなこの人物を、染谷は淡々と演じている。が、無感情だとは思わない。彼は本作の物語を転がしていく、いわばゲームプレイヤーだ。腹の底が見えないが、何か魂胆があることは分かる。それを染谷は視線やセリフの語調で仄めかす。
『ドクターX』はテレビドラマからスタートしていることもあり、一人ひとりの俳優の演技は多少オーバーで、端的に個々のキャラクターを表している。
だが、比呂人はある種の謎を抱える人物だ。彼までもがずっとオーバーアクトでは緊張感が無くなってしまう。だから染谷は自身の演技で観客に伝えなければならない情報だけは的確に発し、それ以外のシーンでは感情の起伏がほとんどない演技に徹している。そしてこれが後半の展開に効いてくる。やがて比呂人はそれまで抑え込んでいた感情を爆発させることになる。この演技の転調ぶりも鮮やかだ。それでいて、主演の米倉が率いる若手からベテランまでの演技者たちとの調和も取れている。いくら比呂人が本作をかき乱す役どころだといっても、周囲の者たちとのバランスがうまく取れていなければ、作品は成立しやしない。スクリーンに映る俳優・染谷将太を目で追っているだけで、ひとときも飽きることはないだろう。ぜひ劇場で確かめていただきたい。
■公開情報
『劇場版ドクターX』
全国公開中
出演:米倉涼子、田中圭、内田有紀、今田美桜、勝村政信、鈴木浩介、染谷将太、西畑大吾、綾野剛、遠藤憲一、岸部一徳、西田敏行
脚本:中園ミホ
監督:田村直己(テレビ朝日)
音楽:沢田完
制作プロダクション:ザ・ワークス
製作幹事:テレビ朝日
配給:東宝
製作:「劇場版ドクターX」製作委員会
©2024「劇場版ドクターX」製作委員会
公式サイト:https://doctor-x-movie.jp/
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