オカモト監督が語る『メカウデ』誕生秘話 自主制作から新時代メカアクションへの軌跡
現在放送中のTVアニメ『メカウデ』。福岡のアニメプロダクション「TriFスタジオ」のオカモト監督による自主制作からプロジェクトが立ち上がり、2018年におこなわれたクラウドファンディングは目標金額の倍額を集めるほどの支援があった。その後約30分のパイロット版が制作され、満を持して2024年10月よりTVアニメシリーズがスタート。監督を含めメインスタッフの全員がTVアニメ制作に初挑戦という状況で、『メカウデ』はどのように誕生したのか。そして「人間」と「機械生命体“メカウデ”」の融合というテーマはどのような物語を紡いでいるのか。オカモトのクリエイティビティの源泉に迫った。
人間と機械、“異質なもの”同士が結びつくアイデアのルーツとは
——改めてオカモト監督がこの作品に携わった経緯を教えてください。
オカモト:もともと私は学生時代から自主制作アニメやイラストのお仕事をしていました。そんななか福岡で、TriFスタジオの前身となる自主映画のサークルからフリーランスのクリエイター集団が結成され、私はそこにアルバイトとして参加することになって、現在の代表である麻生秀一と親しくなりました。あるとき、私が息抜きで描いたイラストを彼に見せたら、その場で「これをアニメ化しよう」という話になって、そこから『メカウデ』プロジェクトが始まりました。最初からアニメにするつもりで描いたわけではなく、なんとなくイラストを見せたところ、彼が好きなジャンルと重なったようで、ぜひアニメーションとして動かしたいという話になりました。そして短いPVを作るところからスタートしました。
——プロジェクトの立ち上げから考えると、意外と結構な時間が経っていますよね。
オカモト:そうですね。最初のイラストを描いてから今年でちょうど10年経っています。
——記念すべき10周年ですね……! 実際にテレビ放送を観てどう思いますか?
オカモト:クラウドファンディングでパイロット版を制作していたときから「テレビシリーズを目指そう」と明確に意識していたので、ようやく目標に到達したなという気持ちです。
——息抜きに描いたイラストから始まったプロジェクトということですが、そこで描かれた主人公・ヒカルとアルマのビジュアルが象徴する「人間と機械生命体の融合」というテーマは、ストーリーの根幹にも関わることだと思います。
オカモト:そうですね。といっても、私が「人間ではないもの」に慣れ親しんできたからそういうものを作りたいなと思い自然に出てきたものなので、何か目的があって人間とメカのバディものにしようというつもりはありませんでした。ただ、ストーリーを作るにあたって、メインはあくまで主人公である人間の成長と捉えていて、その過程を描くにあたって「人間ではないもの」をぶつけたら対比として描きやすいのではないかという狙いはありました。
——とにかく「異質なもの同士をくっつけたい」という監督の欲望のようなものを、ストーリーでも主張しているだろうし、設定やビジュアルの水準でもそれを感じますよね。それこそアルマは「パーカー」にくっついてるじゃないですか。なんでそんな発想が生まれたんだろうと感心したわけですが、こういう「一見くっつかなそうなもの」があっさり結びついているというアイデアが随所に表れているなと思うんです。
オカモト:人間のどこかしらにメカの腕が生えているというアイデアから、主人公には顔のそばにメカがいてほしいなと思っていました。そこから自然とパーカーから生えているというビジュアルになっていきました。
——パーカーにくっついて飛びはねるアルマは結構かわいいなと思って観ていたんですが、あの挙動も監督のデザインがなければ生まれなかったものですよね。
オカモト:キャラクター原案は基本的に全て私がやっているのですが、メカウデに登場するキャラクターは線の数だけでいうとすごくシンプルです。たとえば人物の目にしても、最近のアニメやイラストだと瞳の中のディテールはかなり凝ったデザインのものが多いと思うのですが、『メカウデ』のキャラはもう丸だけ、三白眼・四白眼だけというすごくシンプルなデザインにしています。また、線の特徴だけで個性を持たせるというのは限界があるので、デザインはシンプルだけれど、パッと見の色でどのキャラかわかるような配色にしています。基本的にCGで動かしているメカウデのデザインも、カットによっては作画もできるように線の数はそんなに多くならないようにしています。
——CGと作画があまりにも自然に馴染んでいたのはそういうわけだったんですね。オカモトさんの独創的なビジュアルセンスがどのように脚本に落とし込まれていったのかについてもお聞きしたいです。
オカモト:シリーズ構成を一緒に作っていただいた中西(やすひろ)さんにはパイロット版のときからお世話になっていて、素人同然で手探り状態の私たちにすごく合わせていただいたなと感謝しています。そして脚本全体にかかわる話なんですが、どうしても文章ベースだとメカウデたちをキャラクターとして落とし込むのが難しかったので、プリビズという形で映像をシナリオと同時もしくは先行して作っていったという流れがありました。文章だけでストーリーを考えていると、メカウデが「キャラクター」であることを忘れてしまって、ついつい喋らせることを忘れてしまうんです。その場にメカウデはいるのにリアクションが無いみたいな状況になりがちで、どうしても人間だけの会話になってしまう。画面上には確かにメカウデは存在し、彼らは人間のキャラクターと同等のはずなのに無言で何もしていないような状況がわりと発生してしまって。それをビジュアルを先に作ることで回避したという経緯があります。
——なるほど。パイロット版の制作時期からはかなり時間が経ちましたが、他に苦労したエピソードはありますか?
オカモト:パイロット版を制作していた時期は実はメインスタッフは6人ぐらいしかいませんでした。何人かのアルバイトや外部の方に手伝っていただきつつ、何とかパイロット版を完成させたのですが、さすがにテレビアニメの1クール12話分を作るとなると、そんな少人数ではできません。ですので、そこから人を集めて育て上げていったという、まさに現場そのものをイチから作り上げたことが一番苦労した点だと思います。今は20人ちょっとスタッフがいますが、そのほとんどが新卒の大学生や専門学校生からの採用でして、そんな全く経験のない若い子たちにアニメの作り方を教えるところから始めたという経緯がありました。
——すごいですね……。
オカモト:いま『メカウデ』の制作を経て、みんなの実力がついてきたので、新しい作品を作ろうとしている状況です。
——そう考えると、オカモトさんは作家性に溢れた“孤高のクリエイター”みたいなイメージを勝手に持っていたんですが、今のお話を聞く限りでは意外と「チーム運営」でも才能を発揮しているような気がします。
オカモト:もともと私は一人でやっているほうが楽なタイプです。TriFスタジオの創設メンバーにも特別育成に長けた人とかチーム運営が得意な人がいたわけでもなく、それぞれが役割分担をしながら運営しているという雰囲気です。ですので、一人でやるというマインドも残しつつチーム運営という考え方と両立できたのかなと思っています。私が絶対に譲りたくない作業にきちんと集中できるように、振れる作業は極力誰かに振るということを意識しました。そうしてここ3年くらいで、チーム運営にも結構慣れてきたなと思います。
——監督が「これは譲れない」と思う作業とは具体的に何ですか?
オカモト:監督としてやっていいことなのかは判断がしづらいですが、スタッフに対してキャラクターの微妙な表情などはやはり言語ではニュアンスが伝えきれないところがあるので、私の方で作画の修正を入れたりしていました。「ここぞ」というキャラクターの表情にはどうしても譲れない部分がありますね。
——表情というと、バトルシーンや日常シーンに限らずということですか?
オカモト:そうですね。とくにコメディパートにかなりこだわっています。スタッフに任せると、当然いわゆる「設定画にある顔」で描いてきます。確かに設定画ではそうなんだけど、「これこれこういう状況のときってそんな顔にならないよね」みたいに思うことがあって、私の方で手を入れたりしました。全てのパターンのお手本を用意することは不可能なので、どうしてもその場その場のアドリブの作画で芝居をさせる必要がありました。
——たしかに、ギャグシーンのほうが表情が豊かだなと感じます。アルマがトイレットペーパーで遊んでヒカルがツッコむときや、アキが窓をぶち破って部屋に飛び込んでくるシーンのヒカルのリアクションなど、言われてみればそういうところのほうが表情豊かに描かれていたと思います。
オカモト:逆にアクションでの身体の動きに関しては、最近はスタッフに任せるようにしています。アクションについてはみんな目指すべき「カッコいい動き」というものがそれぞれにあるので、バトルシーンの多くは若い世代のスタッフたちの手で作られています。
——まさに第1話の冒頭はアキの戦闘シーンから始まるわけですが、あの時点でもうこの作品のバトルシーンのおもしろさは保証されてますよね。
オカモト:ありがとうございます。
——あの第1話の冒頭は重要なシークエンスで、やはりこの作品はビジュアルの良さが先行しているところが長所だとは思うんですが、今回インタビューにあたって見返してみたら、冒頭時点で重要なキーワードの固有名詞がちりばめられていたことに気付きました。ただしそれでも説明過剰にならないように、あくまでも見どころはバトルシーンであるというふうにいいバランスで作られていて、改めてすごいなと思いました。
オカモト:そこは狙ったところなので、本当にうれしいです(笑)。それに関して言うと、このアニメの制作にあたってハリウッド作品の構成について作品に活かせるようスタッフと一緒に研究しました。冒頭が派手なアクションで始まるのもそうですし、単なるアクションだけではなくて後から見返したときに気付けるような情報をちりばめるというのもその影響が出ているのかなと思います。
——そういう「勉強」として観た作品のほかに、純粋にファンとして監督が影響を受けた作品はありますか?
オカモト:あまり意識はしていなかったんですが、『メカウデ』を作り終わってから見返してみると『シャーマンキング』の影響をとても受けているなと思いました。
——それは思っていたけど言わないようにしていました(笑)。こっちから他の作品の名前を出すとまずいかなと思って(笑)。
オカモト:大丈夫ですよ(笑)。むしろ私も幼少期にどんな作品に影響を受けたのか自ら分析したいと思っていますので。ただ、私は10代までを民放の少ない田舎で過ごしていたので、メジャーなアニメの多くをテレビで観ることができませんでした。漫画だけは読んでいたので「あの頃観れなかった『シャーマンキング』のアニメを自分で作って観たい」というような気持ちがあったのかもしれません。もっとも『シャーマンキング』のアニメは最近リメイクされ、改めて観ることができましたけれど。
——武井宏之先生の描く人間キャラって、ビジュアルだけに限れば本当に弱々しいというか、心配してしまうような体型の少年少女が多いわけですが、それに対してやたらイカつい「オーバーソウル」をまとうあの不格好さが、なぜか逆にカッコいいみたいな独特のセンスがありますよね。
オカモト:本当にカッコいいです。アルマもオーバーソウルみたいですよね。