あおい輝彦が俳優としてこだわり続けたものとは? 転機となった『続・人間革命』への思い
2022年にデビュー60周年を迎え、俳優としてドラマ『水戸黄門』(TBS系)佐々木助三郎(三代目助さん)役、映画『犬神家の一族』犬神佐清(スケキヨ)、青沼静馬(シズマ)の二役を好演。声優では『あしたのジョー』矢吹丈役、歌手としては「あなただけを」「二人の世界」などのヒット曲を持ち、オールジャンルで活躍してきたあおい輝彦。
そんなあおいの出演作『続・人間革命』<4Kデジタルリマスター版>(1976年)が、日本映画専門チャンネル「最高画質で甦る 必ず観たい日本映画の名作」特集にて、11月に放送されることが決定した。
本作は、大ヒット映画『人間革命』(1973年)の続編。創価学会を大きくしようと尽力していた戸田城聖(丹波哲郎)は、勉強会で青年・山本伸一(あおい輝彦)と出会う。戸田は、あることをきっかけに宗教の道に専念して……というあらすじ。本編前後には、新撮したあおいの特別インタビューも放送される貴重な機会となっている。
今回、あおいに話を聞くことができた。本作のことはもちろん、あおいの俳優としてのこだわりも聞いた。(浜瀬将樹)
「人間力が演技として反映される」
ーー芸能活動を始めて60年以上が経過し、そのあいだも映画、ドラマ、舞台などに立ち続けてきたあおいさん。俳優を始めた当初から現在とで、気持ちの変化を感じることはあるのでしょうか?
あおい輝彦(以下、あおい):初代ジャニーズを解散してすぐに『木下恵介アワー』という枠で木下監督のドラマに出演させていただきました。当時、本当の学校があったわけではないのですが、「木下学校」でいろいろ学んだなかで「『こうやったら“らしく”見えるよ』ではなく、『本当に役そのものになりなさい。それが本物の演技なんだ』」と教えていただきました。その延長線上で今もお芝居を続けていますね。
ーーあおいさんはこれまで幅広い役を演じてこられました。まさに役づくりで大切にされていたことも「なりきる」ということなのでしょうか?
あおい:「こうやればらしく見えるだろう」ではなくて「自分がその人物になる」。自分が人物そのものになっていれば、もう技術じゃないですよね。「役になりきっているんだから、どこから撮ろうと大丈夫。どうぞ勝手に撮ってください。後ろからでもいいですよ」って。本人そのものになりきることが大事だと思っています。たとえば、映画『二百三高地』(1980年)でロシアを愛していた教師・小賀武志(あおい輝彦)が、ロシアを敵視するようになり、乃木希典大将(仲代達矢)に食ってかかるシーンがあるんですけど、僕はテントの中で撮影が始まるのを待っていたんです。するとみんなが「近寄るのが怖い」って言うんですよ。それはロシアへの憎しみのオーラが全身から発散したからだと思います。
ーー素敵に年齢を重ねているあおいさんですが、これから演じてみたい役はありますか?
あおい:渋いおじいさんの役をやりたいですね。欲はないけど深い愛だけはある。いるだけで歴史を感じられるような、そんな渋い役をやってみたいです。
ーー今回、日本映画専門チャンネルで、過去の名作を最高画質で楽しむ企画にて、あおいさんの出演作『続・人間革命』が放送されることが決定しました。
あおい:とても嬉しいですね。僕も最近自宅のテレビを4K仕様のものに変えたところなんですよ(笑)。20年ほど前にハイビジョンになったとき「なんて綺麗なんだ」と感激しましたけど、4Kも映像の素晴らしさ、臨場感がある。改めて昔の作品を綺麗な映像で観られるって、すごくいいことだと思いますよ。
ーー今回の特集を機に『続・人間革命』をご覧になったそうですが、いかがでしたか?
あおい:半世紀も前の映画なのに、感動するし、まったく古いところがないですね。時代背景は昭和の初めごろなのですが、今観ても伝えたいこと、表現したいことがまったくぶれていないんです。
ーーあおいさんが演じる山本伸一は、戸田が経営する出版社「日本正学館」で「少年日本」の編集長となって……という役どころです。彼は、どんな人物なのでしょうか?
あおい:本当に純粋で「これから大人になる」「人の役に立てるような成長を遂げていきたい」という真っ白な若者です。彼は、いろいろなことを経験し、吸収し、そのなかで傷つくこともありながら、まさに「人間革命」を成し遂げていきます。
ーー本作は、多額の予算をかけて製作されたとお聞きしました。
あおい:当時、映画業界が斜陽になって、どんどんスケールが小さくなっていたし、製作費も少なくなっていた時代でした。そんななかで、『続・人間革命』は、予算をかけて、じっくり撮るという映画作りの王道を貫いた作品でしたね。次に出演した『犬神家の一族』も同じく、予算をかけて、いい作品を作りたいという気概を感じました。
ーー現場でもその雰囲気は感じられたんですね。
あおい:みんな「映画人として真心を注ぐ場ができた。さあやるぞ!」とすごく生き生きとしていました。全員が一所懸命に情熱を持って映画を作る姿は、非常に気持ちのいいものでしたね。細かいところまでこだわっていましたし、みんなが必死になって「これ以上できないよ」というぐらいまでやった作品だと思います。セットひとつにしてもね、畳の色からこだわるんですよ。綺麗ならいいというものではなく、何年ぐらい使った畳を敷けばいいのか、障子はどうすればいいのか……細かく丁寧に作っていましたね。
ーー共演者のなかには、丹波哲郎さんをはじめ、仲代達矢さんや渡哲也さんなど名優が多く出演されています。先輩俳優の方々から得られるものも大きかったのではないでしょうか?
あおい:そうですね。例外はあるのかもしれないけど、やはりいい役者というのは、それだけの大きさ、優しさ、包容力があるんですよ。演技だけうまい人ってなかなかいないと思います。その人間力が演技として反映されるんだと思いますよ。