『おむすび』第1話から見返すと印象がまったく変わる? 震災の描写から伝わる作り手の覚悟

『おむすび』第1話から見返すと印象変わる?

 1995年1月17日、神戸。朝ドラことNHK連続テレビ小説『おむすび』第5週「あの日のこと」(演出:松木健祐)では、ほのぼの米田家をすっかり変えてしまった「あの日」とその後を描く。

 事前に「このあと地震の描写があります」というテロップの入る配慮があり、夜中、大きな地震が起こる。結(幼少期:磯村メアリ)たちは父母と姉と共に小学校へ避難した。たくさんの人たちが集まって、不安ななか、おむすびを差し入れてくれた人がいた。でも結は「冷たい」「チンして」と何気なく言ってしまう。おむすびを配っている雅美(安藤千代子)は結を責めることなく、むしろ「ほんまにごめんな」と謝る。電気もガスも止まってしまってチンできないし、街も道路も崩壊し来るまでに時間がかかって冷めてしまったのだ。生まれ育った神戸が地震で変わり果てた様に涙する雅美と、ことの重大さがわかっていない幼い結との残酷な対比。おそらく、当時、1月の夜、とても寒く、おむすびがひんやり固くなっていたのだろう。それでも美味しく思って救われた人もいるし、冷たさが身にしみた人もいたのだろう。

 同じように震災の経験を描いた『おかえりモネ』(2021年度前期)では、ヒロインの百音(清原果耶)が地震によって津波が来たとき地元にいなかったことを妹(蒔田彩珠)に「お姉ちゃん津波見てないもんね」と逆恨みされていた。これは百音には不可抗力なので同情の余地は大いにあった。が、『おむすび』は悪意がないとはいえ、ギリギリの他者の好意に冷たい言葉をかけてしまうという、ある種の加害を主人公に付与した。その手厳しさに驚いた。これは主人公にも厳しいと同時に、作り手が自ら厳しさを背負う覚悟を持っていると感じるのだ。主人公や送り手が必ずしも正しいわけではないということを引き受ける覚悟である。

 米田家は家も店舗も倒壊、歩(少女期:高松咲希)は親友・真紀(大島美優)がタンスの下敷きになって亡くなったことを知る。前日、一緒に買物をして、またねと別れた。だが、またねはもうない。以後、歩は塞ぎ込んで、糸島に引っ越してからも中学に行かず、部屋にこもってしまう。

 ある日、高校に行くと決意した歩だったが、なぜか金髪に染め、制服を着崩して現れた。そのときの歩の席は永吉(松平健)と聖人(北村有起哉)の間だった。2004年、その席に結(橋本環奈)が座っている。

 第1話で結が高校に通いはじめるとき、食卓で「髪を茶色にしたり化粧したりしてくるのではないかと永吉が言うと聖人が「結はそんな不良じゃない」と否定していたのは、過去に一度、歩を通してそういう経験があったからなのだ。そう思うと、結が第1話の冒頭で制服を着崩すかどうか迷っていたのは姉を意識していたことがわかる。軽快な劇伴にすっかり騙されて、愉快なドラマのはじまりと思って観ていた視聴者が大半であろう。まさか震災体験を引きずっていたとは思いもよらなかった。劇伴を物悲しいムードに変えたら全然違って見えたに違いない。編集マジックである。そうは見えないけれど、悲しみを抱えている人たちはいるということなのだ。

 第1話から結が言っていた「おいしいもの食べたら悲しいこと忘れられる」も傷心で糸島にやって来た結を励まそうとした佳代(宮崎美子)の言葉であった。今後も、こう見えて実は……ということが次々出てくるらしい。とすると、永吉のホラ話のなかにもきっと真実が混じっているのではないだろうか。玉石混交。ひみこ(池畑慎之介)が栃木、京都、高知、韓国、福岡と点々としていることにも決して愉快ではない事情があるのではないか。なんて疑っているものに限って外される可能性もありそうだが。

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