『アリス・イン・ワンダーランド』が女性に人気の理由は? 多彩な衣装に目を奪われる
10月18日の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で、ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)が放送される。世界中で長年愛されているルイス・キャロルによる児童文学『不思議の国のアリス』をもとにした本作は、日本でもファンの多いバートンの独特な世界観で描かれ、特に女性人気の高い作品でもある。イマジネーションとクレイジーなアイデアにあふれたワンダーランドでの冒険に、多くの人が心躍らされることだろう。ここではそんな『アリス・イン・ワンダーランド』でとくに注目の点を紹介させてほしい。
個性的で魅力的な衣装の数々
19歳のアリス・キングスレー(ミア・ワシコウスカ)は、母親に無理やり連れて行かれたパーティーで白ウサギを見つけ、その後を追って穴に落ちてしまう。たどり着いたのは邪悪な赤の女王(ヘレナ・ボナム=カーター)が支配する不思議な国・ワンダーランド。白ウサギたちに連れられ、青いイモムシのアブソレムに会ったアリスは、自身が予言の書に書かれた暗黒時代を終わらせる戦士だと知らされる。アリスはすべてを夢だと思うが、彼女を何年も待ちつづけていたマッドハッター(ジョニー・デップ)や白の女王(アン・ハサウェイ)らと力を合わせ、赤の女王との戦いに挑むことになる。
本作のストーリーで肝になるのは、アリスが幼い頃にワンダーランドを冒険したことを夢だと思って忘れていることだ。そのため彼女は初めてワンダーランドにやってきたときと同じように、勝手がわからず混乱する。特にアリスを困らせるのは、飲み物や食べ物を口にすると体が大きくなったり小さくなったりというストーリー上重要な変化だ。
この設定を実写化するにあたって重要なのは衣装だと言っていいだろう。体の大きさは変化するが服の大きさは変わらない。そのためアリスは変化が起こるたびに新しい服をまとうことになる。この衣装を手掛けたのは、1990年の『シザーハンズ』以来、『マーズ・アタック!』(1996年)、『ビッグ・フィッシュ』(2003年)、『ダーク・シャドウ』(2012年)など、多くのティム・バートン作品に参加してきたコリーン・アトウッドだ。彼女は本作でアカデミー賞衣装デザイン賞を受賞。ティム・バートンが創り上げる奇想天外な世界にぴたりとマッチする衣装が、作品の魅力を底上げしている。
アリスといえば多くの人が思い浮かべるのは、1951年のアニメ映画『ふしぎの国のアリス』の青いパフスリーブのエプロンドレスだろう。本作でもアリスの衣装の多くは青系の色が中心となってるが、そのデザインは多種多様だ。冒頭の現実世界のシーンでアリスがまとっているのは、淡い水色のドレス。『アリス・イン・ワンダーランド』の時代設定は原作と同じ19世紀ヴィクトリア朝のイギリスと考えられるが、当時は常識だったコルセットやストッキングを身に着けていないことで、アリスの自由な精神を表現している。
その後ワンダーランドに迷い込み、不思議な飲み物で体が縮んでしまったアリスは、もともと身につけていたアンダースカートをリボンで幾重にも巻き付けることで急場をしのぐ。マッドハッターがあつらえたベアトップドレスは、スカート部分のチュール生地が効果的だ。さらに赤の女王から与えられた赤と黒と白のドレスは、これまでの寒色系のドレスと打って変わって華やか。肩から腰にかけて施されたちぎれたようなフリルや、パニエを仕込んで持ち上げていると思われるスカートの広がりが美しい。
マッドハッターの衣装はアニメ版とは違って落ち着いたカラーパレットになっているが、ディテールや小物使いにセンスが光る。仕事用のハサミやリボンなどが入ったポシェットは、ミシン糸をつなげたチェーンで斜めがけになっている。マッドハッターの衣装はほぼ同じデザインで、黒地に奇抜な柄のボウタイシャツを基本に、色違いのジャケットとパンツ、ジャケットの袖からはアンティーク調のレースを大胆に覗かせている。手に巻いているブラウンのチェックの布や、常につけている指ぬきも彼のトレードマークだ。ハッターといえば帽子だが、こちらはアニメ版を踏襲したてっぺんに向かって広がっている大きなシルクハット。「10/6」のメモはもちろん、オリジナルの要素としてクジャクの羽などの華やかな装飾が加えられている。
赤の女王の衣装はヴィクトリア朝時代のドレスを基調に、高い襟が特徴的だ。これは撮影後に視覚効果で頭部が大きくされることを考慮して、首を強調するためにデザインされたという。さらにウエストの脇を黒にすることで、絞られたラインを強調し、全体のバランスを取っている。また、赤の女王の城での白ウサギの衣装は、原作のオリジナルであるジョン・テニエルによる挿絵にそっくりだ。どのキャラクターの衣装にも細かな趣向が凝らされているので、ぜひ注目してほしい。