宇野維正の映画興行分析

『室井慎次 敗れざる者』と『ジョーカー2』の共通点 一度立った悪評から映画は逃れられるか?

 10月第2週の動員ランキングで1位となったのは、フジテレビジョンと東宝による人気フランチャイズ、『踊る大捜査線』シリーズの『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』以来12年ぶりの劇場映画、スピンオフ作品としては『容疑者 室井慎次』以来19年ぶりの劇場映画、柳葉敏郎演じる室井慎次を主人公にした2部作の前編『室井慎次 敗れざる者』。オープニング3日間の動員は25万1000人、興収は3億6100万円。祝日となった月曜日を含むオープニング4日間の動員は34万5000人、興収は4億8900万円。

 続いて、2位に初登場したのはトッド・フィリップス監督、ホアキン・フェニックス主演による、前作『ジョーカー』から5年ぶりの続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。オープニング3日間の動員は21万3000人、興収は3億5400万円。月曜日を含むオープニング4日間の動員は27万9000人、興収は4億5600万円。動員では『室井慎次 敗れざる者』に差をつけられているものの、ラージフォーマット上映の需要の高さによって興収ではほぼ互角。オープニング3日間では、約700万円という僅差で興収1位を逃すかたちとなった。

 さて。邦洋、秋の期待作がそれなりの数字を残したことで、シネコンもそれなりに賑わった週末となったわけだが、その数字が突きつける現実はなかなか厳しい。『室井慎次 敗れざる者』のオープニング成績は12年前の『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』との興収比で約35%。19年前の『容疑者 室井慎次』もオープニング2日間(当時は土曜日公開)で約6億4000万円をあげていたので半減以下となっている。悩ましいのは、今回は単発の作品ではなくあくまでも前編で、1ヶ月後の11月15日には後編の『室井慎次 生き続ける者』の公開が控えていること。2作品の合計でなんとか19年前の『容疑者 室井慎次』の最終興収38.3億円に届けば、といったところだろうが、劇場に足を運んだ観客の感想などからは、次作への期待があまり感じられない。

 もっと厳しいのは『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』である。同作は1週前に公開された北米で予測を大きく下回るスタートを切って、そこからさらに2週目には空前の下落率を記録してしまった。その背景には、メディアの異様なまでのネガティブキャンペーンと、それにも乗じたソーシャルメディアにおけるネガティブなミーム化(ソーシャルメディアの特性上、その多くのポストやリポストは実際に作品を観ていない人々によるものだ)があったわけだが、そこまで賛否の「否」が強くなかった日本でも、前作『ジョーカー』のオープニング成績との興収比で約47%。5年前なのでまだ記憶をしている人も多いと思うが、『ジョーカー』は作品が社会現象化したことで2週目以降も驚異的な持続力をみせて、そのまま4週連続で1位を独走したわけだが、現状、今回の『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』にそのような機運はまったく見られない。

 作品の成り立ちはまったく違うものの、現象面において『室井慎次 敗れざる者』と『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は似ている。期待された人気フランチャイズの新作ながら、予測値を下回る結果を出して、一般の観客からの作品の評判も芳しくない。今の時代、ここから挽回するのは至難の業だ。

■公開情報
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
全国公開中
(日本語吹替版・字幕版同時上映 Dolby Cinema/ScreenX/4D/ULTRA 4DX/IMAX)
監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックス、レディー・ガガ、ブレンダン・グリーソン、キャサリン・キーナー、ザジー・ビーツ
配給:ワーナー・ブラザース映画
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公式サイト:JOKERMOVIE.JP

『今週の映画ランキング』(興行通信社):https://www.kogyotsushin.com/archives/weekend/

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