『葬送のフリーレン』は“なろう系”っぽいのか? “さりげない”王道展開を示した物語構造

フリーレン=なろう系主人公(?)

 フリーレンがなろう系主人公っぽいのは、要するに彼女が作中で最強の魔法使いだからである。なろう系作品ではタイトルに「チートスキル」などと記されることが度々あるように、「最強」の主人公が「無双」する作劇は頻出し、それがフリーレンが最強とされる設定と類似するというのだ。

 ただ、フリーレンは作中で最強格のキャラクターではあるものの、どんなときも無敵というわけではない。そもそも魔王もパーティを組まなければ倒せなかったとされているし、ゼーリエはフリーレンの師匠的立場であり、断頭台のアウラにしてもかつての魔力量はフリーレンを凌駕していたようだ。

 したがって仮にフリーレンがなろう系主人公っぽいと言うのであれば、単に強いからというだけでなくむしろ、「人の一生分の時間を、経験値を引き継いだまま繰り返せる」というエルフの長寿設定が擬似的に「転生」を意味するからではないだろうか。

 つまり「ヒンメルの死」という明らかな断絶が、フリーレンにとっての「異世界(勇者ヒンメルの死からX年後の世界)」を構築し、その世界で彼女は「前世」の経験値を引き継いだまま最強の魔法使いとして立ち回るのである(作中舞台が、「異世界」もので定石のJRPG的ファンタジーであることは言うまでもない)。

 したがって「ヒンメルの死」がフリーレンを「未亡人」かつ「なろう系主人公」っぽくしているのであり、かつこの作品の「(擬似的な)家族もの」「(擬似的な)転生もの」としての性格も生んでいるのだ。そしてそれら(特に後者)が巧妙にカモフラージュされることで、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)の視聴者層にも届き得る一般性を獲得したのだろう。

すべては「シュタフェル」のために

 ところで私は「シュタフェル」だが、上述したような構造が二人のイチャイチャをどのように強化しているのかも指摘しておこうと思う。

『葬送のフリーレン』第2期は“恋の進展”に期待!  シュタルク×フェルンの甘酸っぱさ

TVアニメ『葬送のフリーレン』の第1期が放送終了してから約半年、はやくも第2期の制作決定が発表された。アニメーション制作は引き続…

 端的に言えば『葬送のフリーレン』が擬似的に「家族もの」「異世界転生の冒険譚」であることによって、カップルが「同棲」する必然性を巧みに作り上げている。

 つまりシュタルクとフェルンは「母」としてのフリーレンの前では擬似的に兄妹/姉弟(どちらを年長とすべきかは諸説ある)であり、異世界の冒険のためのパーティメンバーでもあるので、いつも「同棲」していたとしても不思議ではない。これがたとえば7月期のアニメ『義妹生活』や『恋は双子で割り切れない』のように、明らかな美少女キャラクターの(半)同棲によって恋が進展することが示唆されているような作品だったら、普段深夜アニメを観慣れていない層にとって視聴難易度が上がってしまうだろう(少なくとも『金曜ロードショー』で放送するわけがない)。

 すなわち『葬送のフリーレン』という作品は「少年漫画の王道(ヒンメルならそうした)」「なろう系の無双感(最強の魔法使いとしてのフリーレン)」「同棲もののカップル(シュタフェル)」という定番の人気要素を押さえておきながら、同時にそれらをさりげなくカモフラージュする工夫が随所にみられる。その成立根拠としての淡白さを、「勇者ヒンメルならそうしただろうね」と無機質に繰り返すフリーレン(種﨑敦美)のあのセリフが象徴しているかのようである。

■配信・リリース情報
『葬送のフリーレン』
TVアニメ1期各動画配信サービスにて配信中
Blu-ray&DVD全7巻発売中
原作:山田鐘人、アベツカサ(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
アニメーション制作:マッドハウス
©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
公式サイト:https://frieren-anime.jp
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/Anime_Frieren
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@anime_frieren

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