『LOOSER 2022』は語り継がれるべき名作! TEAM NACSの円熟と本気が詰まった企画に

TEAM NACS 25周年記念作品『LOOSER 2022』のBlu-rayが9月25日に発売される。

この作品は、2004年にTEAM NACSリーダー森崎博之により脚本・演出された舞台『LOOSER~失い続けてしまうアルバム』を2022年に映像化し、全国の映画館や配信で公開された作品である。

 2004年の『LOOSER~失い続けてしまうアルバム』も、『LOOSER 2022』も、現代に生きる売れない役者のシゲ(戸次重幸※2004年版は佐藤重幸)が幕末時代にタイムリープして、新選組の土方歳三(大泉洋)や芹沢鴨(安田顕)、近藤勇(森崎博之)、沖田総司(音尾琢真)に出会うという内容だ。

 現代に生きる我々にとっては、歴史的な史実は解釈のひとつを見ているに過ぎないという仮説が描かれており、2004年の『LOOSER~失い続けてしまうアルバム』には、新たな解釈をしてみようという森崎の発想の斬新さが感じられた。

 2004年の公演は今から20年も前。メンバーのエネルギーがあふれ出るような舞台で、芝居の中にも、メンバーのアドリブで笑わせる自由なコーナーがあったりと、より「ワチャワチャ」の感じられる、生で観るものだからこその楽しさを追及したような作品であった。何よりメンバーの声も姿も若さにあふれていた。

『LOOSER~失い続けてしまうアルバム』(2004年)

 対して、『LOOSER 2022』は、コロナ禍で、映像作品の在り方が模索されていた中で配信、公開されたものであった。そのため、5人からのファンへのプレゼントのような性質もあり、また、コロナ禍の映像作品の可能性を感じさせるものでもあった。

 ストーリーは、2004年版をベースにしているが、よりそぎ落とした上に、心理描写が付け加えられている。また、シゲがタイムスリップした先が、とある撮影スタジオの中になっており、なぜかそのスタジオの中に幕末の志士たちが生きているというパラレルな世界観となり、メンバーは一人で何役も演じている。しかし、スタジオの中で、ありえないことが起こっているという設定が、荒唐無稽で斬新な舞台的な発想を、映像作品の中でも納得できるものに変えていた。

 俳優たちの演技にも円熟が感じられる。特に、安田顕演じる芹沢鴨が、梅毒を患いながらも気高く生きる‟狂気”は、2004年版と共通しているが、より背景や心情が付け加えられていて、俳優・安田顕の本気が見られるだろう。

 大泉洋は2004年版でも2022年版でも、土方歳三とある重要な人物を演じるが、その切替のアイデアも面白い。大河ドラマなどでも歴史上の人物を数多く演じてきている大泉だけに、歴史上の誰もが知る人物を一瞬で演じ分ける姿には、映像ならではの魅力があった。

 音尾琢真に関しては、近年は白石和彌監督作品などで凄みのある役を演じることが多いが、TEAM NACSの一員になると、いつまでたってもかわいくて気の遣える弟分という面がにじみ出ていて、そんな彼が、意外にも沖田総司という役に今でもハマっているように感じた。

 また、この原案となった『LOOSER』を書いたリーダー・森崎の発想力を、今になっても強く感じたが、その発想力は今回の映像化によって、よりSF的な世界に昇華していた。舞台で映える森崎の大きな芝居も、映像の中で森崎が演じる近藤勇などのキャラクターの大らかさ、コミカルさとぴったりとハマっていて、映像の中でのポイントになっていた。

 舞台では、体の動きや声で見せる芝居が中心であるが、映像作品では、カット割りがあり、表情もしっかりと見える。今回の映像化によって、それぞれのキャラクターの心の動きが、じっくり見えるようになっているとも思えたし、それ以上に、メンバーの俳優としての成長が見て取れる。表情ひとつを見ても、大河ドラマを観ているような瞬間も多々あった。

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