『映画クレヨンしんちゃん』最新作のリアルすぎる恐竜に驚き 2D作画で追求した“質感”

 「ディノズアイランド」の秘密が暴かれ、東京や埼玉に逃げ出した恐竜があふれかえって大騒動が起こってからは、次々に現れる恐竜の種類の多さとカラフルさに驚く。恐竜がカラフルってどういうこと? トカゲやイグアナのようにヌメッとしているのでは? そうではない。『ジュラシックパーク』に出てきたティラノサウルスは確かに暗くてヌメッとした佇まいだったが、『オラたちの恐竜日記』に出てくるティラノサウルスは頭の後ろに毛が生え、体表にも赤などの色が混じっている。

『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』8月9日(金)公開【予告②】

 ヴェロキラプトルやプテラノドンにも毛が生えていて、トカゲやイグアナではなく今の鳥類につながっているのかもと思わせる。化石として掘り出された骨格などから想像で描かれていた恐竜の研究が進んで、羽毛が生えていたかもしれないといった現時点での成果が、『オラたちの恐竜日記』の恐竜には反映されている。学ぶ楽しさがあるとはこのことだ。

 すごいのは、こうした恐竜たちがアニメの絵でありながらもデフォルメされず、フォルムも質感もリアル寄りに作画されている点。3DCGで制作された2023年の番外編『しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』では、クライマックスのロボットバトルが、CGならではの大胆なカメラワークで迫力たっぷりに描かれ話題になった。『オラたちの恐竜日記』は2Dの作画に戻っても、線と色で恐竜の質感を出しつつ、重量感やスピード感を持ったダイナミックな動きを作り出している。

 しんちゃんをはじめキャラクターの方は、臼井儀人の原作漫画から抜け出てきたようなデフォルメされた姿で演技を続ける。方向性が違う作画の恐竜とキャラクターが同じ画面に混在して違和感がないように、恐竜の方もリアルさの中に目を大きくするなど工夫が乗せられている。人間が手で描きながら調整するアニメならではの絶妙さと言えるだろう。

 そんな恐竜も時にはデフォルメされてダンスも踊る。渋谷でオルニトミムスが見せるステージに、親の世代は平成への思いが浮かぶはずだ。

 そうしたストーリーの中で、シロとしんのすけがナナとの間で育む家族愛の暖かさに触れられる。同時に、オドロキーとその家族の間に生まれた行き違いについて、どうしてわかり合おうとしないんだといった苦い思いが浮かんでくる。やりたいことがあるならやってみればいい。そんな当たり前のことがなかなかできない状況に怒り、抜け出すために何が必要なのかを考えたくなる。子どもだから明快に決断することはないだろうが、やってみたいならやってみよう、恐れていないで踏み出そうといったメッセージは伝わるだろう。

 生きていれば避けられない悲しみもあって、涙ぐむ子どももいるかもしれない。それでも、前向きな気持ちになれることは確かだ。映画館を出た子どもが恐竜図鑑を欲しいと言い出したら、迷わずに買って与えてあげよう。未来に「ディノズアイランド」を作って大金をもたらしてくれるかもしれない

 これだけのクオリティーと内容を持った長編アニメを、プログラムピクチャーの『映画クレヨンしんちゃん』シリーズで作れてしまうシンエイ動画の凄さを、改めて感じ取れる作品でもある。『ドラえもん』の映画シリーズも定期的に繰りだしつつ、TVシリーズも毎週しっかりと作り続けることで、どれだけの腕前を持ったスタッフがそこから生まれているのか。そうした成果が、2023年の話題を席巻した『窓ぎわのトットちゃん』や、7月19日公開の『化け猫あんずちゃん』の日常をしっかりと描く高難度で高品質なアニメ作りにつながっているのかもしれない。

■公開情報
『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』
全国公開中
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ、真柴摩利
ゲスト声優:北村匠海、伊藤俊介(オズワルド )、畠中悠(オズワルド)
原作:臼井儀人(らくだ社)『まんがクレヨンしんちゃん.com(https://manga-shinchan.com)』連載中
監督:佐々木忍
脚本:モラル
主題歌:My Hair is Bad 「思い出をかけぬけて」
配給:東宝
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2024
公式サイト:https://www.shinchan-movie.com/
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