『新宿野戦病院』を笑いだけにしない宮藤官九郎の構成力 “そういう子”なんていない

宮藤官九郎がコメディ作家を超えた新たな域へ

 『新宿野戦病院』(フジテレビ系)はどこに向かっているのか。「雑なネタバレ」(by岡本)にならないように気を使いながらレビューしたい。

 アメリカの軍医だったヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)の秘密が第4話にして早くも明かされた。ヨウコと院長・高峰啓介(柄本明)の驚くべき関係(雑なネタバレ)ーーこの手の謎はもっと後半戦で明かされそうなものだがずいぶん早かった。令和的なドラマだとこのあと二転三転、仕掛けが用意されていそうだが、『新宿野戦病院』はどこか古き良き昭和的な残り香があるため、ヨウコの出生の秘密をさっさと明かして、病院一家を中心に、歌舞伎町で生きる様々な人々が、聖まごころ病院を出たり入ったり抜けなくなったり抜けたりする、古き良きヒューマンドラマになるのかもしれない。

 ヨウコがはずき(平岩紙)の腹違いの妹であったことは驚きだった(雑どころかストレートにネタバレ)。「大河ドラマみたいな展開」と巡査・岡本勇太(濱田岳)が言うように、高峰家は病院の跡を継ぐ男の子を必要としていた。高峰家は、歌舞伎町の赤ひげ先生と呼ばれる人情医者の家系と思って見ていたら、とんだ男尊女卑の家系だったのである。

 啓介の正妻の妊娠した子(はずき)が女子とわかると、啓介の父は、リツコ・ニシ・フリーマン(余貴美子)との間にできた子が男子だったら認知すると言う。結果的に、ヨウコも女子だったが、彼女は極めて優秀な医者になって現れ、長年、医学部に落ち続けたはずきは絶望する。

 医学部で男女差別が行われていた実際の出来事も重ねられ、現代的な女性問題に集中していくのは、小池栄子が主演の時点で納得できる。仲野太賀とW主演ではあるが、いまのところ小池栄子演じるヨウコが圧倒的に目立っている。ただし、金のことばかり考えているぼんちゃらの高峰亨(仲野太賀)が、いつの間にか手術に度胸が出てきて、親戚関係だったヨウコと息があったコンビネーションを見せる場面はワクワクさせられた。

 亨の今後も期待したいところだが、ヨウコの出生の秘密とリンクするように第4話では様々な母と子が登場する。ここ、新宿歌舞伎町では、ごく一般的に結婚して子供が生まれて……というケースではなく、リツコとヨウコの婚外子のケースをはじめとして、マユの母・カヨ(臼田あさ美)が援交によって望まない妊娠をしてマユ(伊東蒼)を生んだケース、恋人の子を予想外に妊娠し言い出せないまま赤ちゃんポストに預けようと思っていたが、生まれた赤ちゃんの顔を見たら育てたい気持ちになったトー横キッズ・カスミ(谷花音)のようなケースと、どれも順風満帆とはいかないケースばかりである。

 「親が援交世代で子供がパパ活世代」という台詞は印象的だった。宮藤官九郎は『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)でゆとり世代を、そして『ゆとりですがなにか インターナショナル』ではZ世代を描いていた。余談ではあるが、それは親がバブル世代で子供がゆとり世代、親が就職氷河期世代で子供がZ世代というような感じであろうか。

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