叶姉妹、『劇場版モノノ怪 唐傘』の“現代性”を絶賛 「これは人生の椅子取りゲームよ」

叶姉妹、『劇場版モノノ怪』の現代性を絶賛

 幻想的な和風美術で視聴者を魅了し、瞬く間に話題となったアニメ『モノノ怪』が、放送から17年の時を経て、その神秘的な世界を今スクリーンに解き放つ。7月26日に公開される『劇場版モノノ怪 唐傘』は、男子禁制の大奥を舞台に、退魔の剣を携えた薬売りが怪異の真相に迫る。

 才色兼備のアサと居場所を求めるカメは新人女中として大奥に上がり、集団に染まる儀式に参加する。そして大奥の秩序を保つ歌山の無表情の裏には秘密があった。徐々に広がる不穏な空気は、やがて悲劇へと発展していく。

 仄暗さを纏った人間の業に迫るストーリーと、独特の美術が織りなす『モノノ怪』の作品世界。その鮮烈な美しさは、避けられない引力のように、世界中の美を知り尽くした叶姉妹の目に留まった。類まれなる審美眼を持つ叶姉妹と、日本の幽玄な美を極めた『劇場版モノノ怪 唐傘』。この予期せぬ出会いが生み出す化学反応とは。

叶姉妹が絶賛する、『劇場版モノノ怪 唐傘』の美術

ーー『劇場版モノノ怪 唐傘』をご覧になっていかがでしたか?

叶恭子(以下、恭子):劇場版を観た時、テレビシリーズの雰囲気を壮大なスケールにしたのかなと思っていたのです。でも実際は、あの世界観をそのままに、さらに細部まで繊細な技術で描いているのですね。わたくし、この作品のアートといいましょうか、独特な絵柄が凄く好きです。わたくしが所有している、古典的で厳かなたくさんの着物の雰囲気に通じるものがあって。それとは別にわたくし達は風神雷神図の絵柄が好きで、30年以上前に有名な作家さんに特別に作っていただいたこともあるのですよ。今風に言うと、モスグリーンに近い色で濃淡をつけた、そんなしばらく忘れておりました大好きなお着物達への想いをふと思い出しました。まるで風船に乗って飛んでいった記憶が、ふわっと戻ってきたような。わたくしの中に眠っていた何かを呼び覚ますような……そんな感覚でした。

叶美香(以下、美香):ストーリーの内容ももちろん深いものがたくさんあるのですが、まず視覚的な美しさに圧倒されました。華やかで目移りしてしまうくらいです。テレビシリーズと映画を2回ほど拝見したのですが、このアートを思わせるビジュアルが本当に素晴らしいのです。

ーーお二人とも、テレビシリーズも含めて2周視聴されていると聞きました。

美香:はい。アニメや映画にまつわるお仕事のオファーはたくさんいただくのですが、今回は姉が特に興味を持ったので、お受けさせていただきました。姉がアニメに興味を示すのは珍しいことで、それくらい作品の独特な美しさが際立っていたように思います。

ーー背景美術に国内外の名画を思わせるデザインが巧みに取り入れられていますが、芸術に造詣の深いお二人から見て、どのように評価されますか?

恭子:和と洋が単に組み合わさっただけではない、「新しいもの」になっていると思います。美しさの加減が絶妙で、これは現代アートの優れた部分を凝縮したというより、全く新しいものだとわたくしは感じました。(大奥の中の)一つ一つのお部屋のふすまの絵の在り方が素晴らしくて、屏風にしてお部屋に飾りたいものもたくさんありました。

美香:映画を観るとき、姉とわたくしの見方が全く異なるもので。姉は本当にいろんな角度から観ていて、わたくしは割と正面から観ることが多く……。だから、終わってからいろいろと話すのが楽しいのですよ。斬新でアート性の高い内容なのに豪華絢爛。そんな世界観を、姉と一緒に観ていたからこそ、エミリオ・プッチ柄のものや屏風など、細かいところまで気づけたのです。

恭子:特に素晴らしいと思ったのが、壁紙に描かれたフラミンゴと、エルメスの隠し絵の馬柄ね。

美香:ええ、確かに印象的でしたね。

恭子:エルメスのスカーフに「隠し絵」というものがありまして。もちろん、完全に同じではないのですが、あの馬のモチーフに「なるほど」と思いました。それから、エミリオ・プッチや(ジャンポール・)ゴルチエなど、今では一般的になっているかもしれませんが、かつては斬新だった抽象的なデザインの色使いが豊富に用いられています。それでいて全体的に統一感があり、芸術性が高い。全てのシーンに高い芸術性があるので、最初は「人物がいなくてもいいんじゃないか」と思ったほどです。

美香:たくさんの屏風や襖、壁紙が印象的な作品だったと思うのですが、その中でも、フラミンゴの壁紙を見た姉が「欲しい」と言い出しまして。わたくしは映画に集中しようとしているのに、姉がそればかり言うものですから。それくらい、調度品ひとつとっても美しさが光っていたように思います。

『劇場版モノノ怪 唐傘』本予告

恭子:この作品には新しい要素がたくさんあると思います。ただ、人それぞれ感じ方は違うでしょう。わたくしはファッションに強い興味があって、様々な側面を深く掘り下げますので、ついストーリーよりもそちらに注目してしまうのです。着るものだけでなく、オブジェや室内装飾など、多くのものに目を奪われてしまって。

美香:そうですね。わたくしも昨日、再度映画を拝見したのですが、2回目にしてストーリーの細部にもっと深く入り込めました。アニメでありながらアートでもあり、非常に奥深い作品だと感じました。

叶美香、『モノノ怪』の薬売りは「初めて観たときも思わず感心いたしました」

ーーシリーズの中心にある薬売りの存在について、どのような印象を持たれましたか?

恭子:薬売りは、本当の自分を隠していながらシンボリックな存在ですね。顔のたくさんのお化粧もそうですし、薬の入れ物の箱の重さや大きさも、薬売りでありながら象徴的ですから。

美香:姉は「この人はね。ピエロなのよ、ピエロの姿をしたナビゲーターでさまざまな取り憑き方をしているモノノ怪を取り払って楽にしてあげる魂なのかしら……」と。薬売りさんはお綺麗ですし、モノノ怪を祓うときには美しい姿になられたりするところなど、初めて観たときも思わず感心いたしました。

薬売り

恭子:ええ、このシリーズは全体的に謎が残ります。わたくし的にですが。薬売りに限らずね。視聴者の方々に「これ一体なんだろう」と思わせる意図があるのか、それとも、わたくしが理解できていないのか。でも、全てを理解する必要はないと感じました。「海坊主」のエピソードでお坊様が美しくグッドルッキングになったときに、「あれはどうしてなのだろう?」って思ったのです。

美香:今回もそういう意味では、いろいろな発見がありましたね。

恭子:「海坊主」の回は、美香さんが(グスタフ・)クリムトが大好きで集めているという意味でも印象深い回でしたね。クリムトの作品そのものではなく、タッチとして登場するのがむしろイキな印象的でした。

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