『虎に翼』寅子の新潟行きはモデル・三淵嘉子と何が違う? 令和的なさまざまな配慮

『虎に翼』寅子は三淵嘉子と何が違う?

 ちょうど、『虎に翼』とキャストがかぶる映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』では、『虎に翼』で心優しい優三さんを演じた仲野太賀が「ゆとりモンスター」と言われる山岸を演じている。彼の先輩に当たる、ゆとり世代の先輩・坂間を演じているのは、『虎に翼』でこれから活躍しそうな星航一を演じている岡田将生だ。山岸は坂間のパワハラを指摘し追い込むようなことをしていたが、やがて、自身がZ世代の先輩になったとき、その言動をことごとく指摘される側となり、「持続可能な働き方を見出す時代」なのだと諭される。

 寅子は山岸と同じ道筋を歩んではいないか。いや、寅子の場合は、穂高や桂場にはまだ気を使われながら、じょじょに後輩や家族に煙たがられはじめている間(はざま)にいる。まだやり直せるというところでの新潟行きであろう。娘のために過去と名前を捨てて日本人として生きる決意をした香子(ハ・ヨンス)と、取り返しがつかないことになる前に娘との関係性を作り直したいと考える寅子の対比も印象的だ。

 令和のいま、企業はコンプライアンスの名のもとにあらゆる言動にひじょうに気を使っている。映像界では、どんなに昔の時代を描いたドラマでも喫煙シーンを出さないように、描写に気を使う。ゆえに、登場人物の欠点を誰かが批判するのではなく、傾聴し受け入れ、リスペクトする、そんな描写になっている。『虎に翼』にはそれを感じるのだ。これも慣れないとなんだか違和感で、これもまさに令和的だ。

 そして、いつの世も、若い世代の登場で上の世代が淘汰されていくもので、若い世代だった者はやがてまた若い世代の登場で古いとされていく。まさに第14週、第70回で穂高が言っていた「出涸らし」の話である。「佐田君、気を抜くな。君もいつかは古くなる。つねに自分を疑い続け、時代の先を歩み、立派な出涸らしになってくれたまえ」のセリフのごとく。

 ちなみに、モデルの三淵が新潟勤務になるのはもっと先で、まずは前述のように名古屋に異動し、東京に戻ってから新潟に行き、そこで女性初の裁判所長になる。昭和47年(1972年)のことだ。モデルの新潟勤務を20年も前倒しにしたのはなぜなのか。今後の展開に刮目していきたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜~金曜8:00~8:15、(再放送)毎週月曜~金曜12:45~13:00
BSプレミアム:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜8:15~9:30
BS4K:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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