アニメファンが『虎に翼』で初めて朝ドラにハマる 脚本家・吉田恵里香の“設計力”に驚き

 『神之塔』は『ぼっち・ざ・ろっく!』とは対照的な作品である。キャラクター間の掛け合いを楽しむというよりは、デスゲームのような複雑な世界観そのものを楽しむ要素で人気を博している。アニメの1話30分という限られた時間の中で、謎が多く、時に理不尽とも思えるゲームの世界を、視聴者をおいていくことなく楽しませるのは至難の業だ。つまりは、原作という予備知識がなくても、視聴者がある程度初見で“ルール”を理解できないといけない。

『神之塔 -Tower of God- 王子の帰還』PV

 しかし、吉田の脚本はこの難題を見事にクリアしている。毎回ゲームマスターのような存在に全てを語らせるわけでもなく、主人公がルール説明をするわけでもない。それでも視聴者は観ているうちに不思議と世界観を理解できてしまう。

 この手法は『虎に翼』にも通じている。例えば、難解な法律用語や裁判の仕組みを、直接的な説明ではなく、登場人物たちの行動や対話を通じて自然に(それもわかりやすく)理解させていく。『神之塔』でのゲームと同じように、『虎に翼』でも法曹界の「ルール」が徐々に明らかになっていく。視聴者は気づかないうちに、複雑な法律の世界に引き込まれているのだ。

 『虎に翼』の前半パートでは、難解な判例を再現する際、猪爪家の面々が出演し、その事件をコミカルな寸劇に置き換えて伝えるというパターンが確立されていた。

 家庭裁判所編に入ってからは、ライアンこと久藤頼安(沢村一樹)が、真珠湾攻撃の前年にアメリカで視察してきた「ファミリー・コート」について寅子に語るシーンでも吉田の手腕が光る。「家庭裁判所とは何か」「寅子たちが目指す家庭裁判所とはどんな施設なのか」ということを直接的に説明するのではなく、ライアンが見てきた理想を通して間接的に表現しているのだ。

 この手法により、視聴者はライアンと共にアメリカの「ファミリー・コート」を想像し、その理念を自然に理解することができる。家事と少年問題、つまり家庭に関する問題を総合的に引き受ける裁判所という概念が、押し付けがましくなく伝わってきたのではないか。

 『虎に翼』は、法曹界を舞台としながらも、決して敷居の高い作品ではない。むしろ、誰もが楽しめるよう緻密に“設計”された作品と言える。複雑な設定や背景を自然に理解させていく巧みな脚本術により、この先も寅子の前にそびえ立つ法曹界という世界が、視聴者にとっても魅力的な舞台として映し出されていくことだろう。

参考
※ https://nikkan-spa.jp/1997168

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、岡田将生、仲野太賀、森田望智、土居志央梨、平岩紙、戸塚純貴、平埜生成、三山凌輝、名村辰、松川尚瑠輝、ドンペイ、和田庵、木場勝己、矢島健一、滝藤賢一、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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