アニメスタジオのここが知りたい!

Production I.G 和田丈嗣が語る“日本アニメの現在地” 「一段上のステージに上がる時期」

異業種とのコラボで新しい可能性を模索したい

――具体的に2つのスタジオの運営指針はどんなものでしょうか?

和田:2つのスタジオはやっぱり結構違うんですよね。I.Gにとって『攻殻機動隊』は重要な作品ですから、そのイメージを活かした作品を今後も作っていきたいですし、一方で『テニスの王子様』や『黒子のバスケ』といったスポーツものも得意にしていたことが『ハイキュー!!』につながっています。

WITは僕と中武哲也と浅野恭司の同世代が作ったスタジオですが、3人とも日本のアニメ・マンガが大好きなので、次に選んだのが『ONE PIECE』なわけで、今後もそういった作品を手掛けていくことになると思います。それと、I.GでもWITでも心がけているのは、業界を超えてコラボレーションをどんどんやっていくことです。WITで、久保雄太郎監督や米谷聡美監督、『PUI PUIモルカー』の見里朝希監督など、商業アニメとは異なるバックグラウンドを持つ人材も採用しているのは、アニメの新しい表現の可能性を模索したいからです。I.G時代でも『PSYCHO-PASS サイコパス』で『踊る大捜査線』の本広克行監督と組み、実写のノウハウを取り入れましたし、WITでは実写の脚本家・古沢良太さんと『GREAT PRETENDER』を作りました。こうした異業種とのコラボレーションを通じて、新しいアニメの可能性をこれからも模索していきたいです。

和田丈嗣

――『グリム組曲』はNetflixの非英語ランキングでベスト10入りしていましたね。

和田:あれはNetflix企画で日本国内のアニメ作りとは少し違ったロジックで生まれたものですが、それがきちんと世界で多くの人に届いたのは、新しい考え方で企画をすれば日本のアニメが世界にまだ広がる可能性があることを示したと思います。

――見里監督のストップモーションのスタジオ創設も驚いた人が多かったと思います。

和田 :WITには山田健太というストップモーションに興味があるスタッフがいて、彼が中心となり、ストップモーションの職人を集めてスタジオを立ち上げました。我々は、プロダクションのマネジメント能力があるので、彼らの技術を活かしながら今も新作を制作中です。ただ、ストップモーション作りは半分は実写みたいなもので、セットを組むのは大道具さんの仕事に近いんですよね。だから、実写出身の方に制作デスクに就いてもらっています。コラボという点では、同業者ですが『SPY×FAMILY』ではClover Works、『怪獣8号』ではカラーと共同制作することでも、それぞれのスタジオのやり方を学び合い、新しいアプローチを取り入れることができます。カラーの方々の怪獣デザインに対するこだわりはやっぱりすごいんです。こちらがOKを出していても、思いついたからと言ってまた修正を出してきたりするんですよね(笑)。飽くなき探求心に背筋が伸びる思いです。

和田丈嗣

スタジオ同士の交流が盛んに、業界全体で課題に取り組む

――世界でさらに拡げるためには、もっと多くの作品が必要になると思います。それには人材育成など、業界の課題も解決していく必要があると思います。

和田:最近、アニメスタジオ同士の交流が増えてきました。TRIGGER、MAPPA、Clover Works、CoMix Wave Filmsなどと定期的に情報交換を行っています。人材育成、AIの活用、セキュリティ対策など、業界全体の課題について話し合っています。こうした協力を通じて、スタジオとしての強化を図っています。技術の進化とともに、AIやデジタル作画ツールを活用して、より良い作品を作るための模索を続けて、アニメ業界全体のレベルアップを図っていこうとしています。

――業界の課題にも交流を通じて取り組んでいくということですね。

和田:そうですね。今、AIやデジタル作画のツールなど、各社が動いている中ですし、そうなるとワークフローも変わっていくだろうし、そういう情報も交換しつつ、より良いものを作れるようにみんなで模索しています。弊社も技術協力として、開発会社に協力して、アニメーターのフィードバックをしたり、機能に対してアドバイスをしたりしています。今、日本のアニメ業界が、すごく高揚していて、未来への希望があると思いますから、こうした取り組みを通じて、業界全体が一丸となって進んでいければと思います。

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