週末に飲むサイゼリヤの100円ワインに思いを馳せて ホン・サンス『WALK UP』にほろ酔い

 ダメ男ビョンスがアパートで女性たちと会話をしていくというだけの物語なのですが、ふとした瞬間に人間のどうしようもなさと愛しさが香りたちます。ビョンスがアパートの各階で行っていく会話劇は、同じ世界線で起きていることを順番に観ているのか、それとも“ビョンスの有り得たかもしれない人生”をそれぞれ観ているのか、あるいはビョンスの夢を観ているのか……どれも正解ではないし、間違いでもない、そんな答えが分からない時間が展開されていきます。

 これってまさにほろ酔い気分のあの感覚です。お酒をたしなむ(特にビールなどではなくワインの酔い方)方にはなんとなく伝わると思うのですが、浮遊感がありながらも意識ははっきりしている部分もあり、夢を観ているほど極端ではないが妙な全能感もあるあの感じ。ひとりマルチバースです。

 普段、映画を観るときは飲食しない派の人間ですが、本作に限ってはビョンスたちの会話に参加するようにお酒と一緒に観るのが最高なように思います。そしていつの日か配信で観られる日が来たら、サイゼリヤでMacを広げて100円ワインと合わせてみたいです。まずはモノクロの美しさを堪能するためにも、映画館での鑑賞をオススメします。

■公開情報
『WALK UP』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、Strangerほか全国順次公開
監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス 
出演:クォン・ヘヒョ、イ・ヘヨン、ソン・ソンミ、チョ・ユニ、パク・ミソ、シン・ソクホ
配給:ミモザフィルムズ
2022年/韓国/韓国語/97分/モノクロ/16:9/ステレオ/字幕:根本理恵
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公式サイト:https://mimosafilms.com/hongsangsoo/

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