トム・クルーズ『M:I-2』は狂い果てた映画だ 特濃のアクション映画スープを全身で浴びろ!

『M:I-2』は狂い果てた映画だ

 サントラはさておき、10分でこんな調子である。なぜ本筋と関係なく死にかけているのか? ヘリとミサイルでサングラスを届ける意味はあったのか? あの「全自動サングラスがウィーンと出る機械」を作った技術者は、どういう気持ちで作っていたのか? ……などなど、冷静に考えると疑問は絶えないが、ワケが分からないくらいカッコいいし、度肝を抜かれっぱなしである。しかし映画は、なおもアクセルを踏みっぱなし。何しろこれを作っているのは、アクション映画の巨匠、“バイオレンスの詩人”ことジョン・ウー監督なのだ。香港映画の金字塔『男たちの挽歌』(1986年)で大ブレイクを果たし、以後も二丁拳銃とスローモーションと白い鳩をトレードマークに、数多くの傑作を作って来たウー。この頃の彼は、技術・経験・体力、すべての面において完成されていた。そんなウーとイケイケなトムクルさんが組んだのだから、映画は爆走するに決まっている。スパイ映画というより、ウーお得意のドラマティックな恋愛要素を主軸に、物語は突き進む。

 そして中盤では前作にはなかった大銃撃戦へ突撃するが……実は、トムは銃撃戦で二丁拳銃を使うのを嫌がったそうだ。しかし周囲の「だったら何でジョン・ウーを呼んだんですか!」という至極真っ当は猛抗議を受けて、試しに1回やってみたら「最高だよ!」と二丁拳銃にドはまり。ウキウキでウーの指導を受けつつ、二丁拳銃アクションに挑んだという。そしてビルの1フロアが半壊する大銃撃戦と、シドニー郊外とはいえ、車が次々と爆破回転する隠密感ゼロのカーチェイスを経て、クライマックスは悪党とタイマンに。敵のナイフがトムの眼球の数センチ前で止まる有名なシーンがあるのだが、ここで今なお続くトムクルさんのリアルを求める姿勢が再びスパークする。

 トムクルさんはウーに「観客に偽物は通じない」と語り、本物のナイフを普通に振り下ろして自分の目の前で止めることを提案。さすがのウーもビックリしたそうだが、とりあえずやることになった。この『バキ』の柴千春も真っ青の失明上等のスタンスで、結果、よく見かけるシーンであるはずなのに、異様な緊迫感がある名シーンになった。トムクルさんもトムクルさんだが、冒頭のように「トムが大丈夫だと言ったから大丈夫でしょう、たぶん」のマインドでGOを出したウーもウーである。これぞコラボレーションの醍醐味だ。

 本作は「スパイ映画か?」と言われたら、正直「いやぁ、ちょっと違うと思います」と、私のような凡人は答えを濁さざるを得ない。しかし、アクション映画として、あるいは異常なほどドラマティックな映画を作るジョン・ウーと、異常なほど体を張りたがるトム・クルーズ、この2人の才能と指向と明後日の方向への思い切りの良さが炸裂した特異点として、間違いなく傑作である。後にも先にも、こんなに濃い映画はないだろう。トムクルさんとウーの魅力をギュッと絞った濃縮100%、特濃のアクション映画スープを是非とも全身で浴びてあげてほしい。

■放送情報
『M:I-2』
日本テレビ系にて、6月14日(金)21:00~23:29放送
※35分枠拡大 ※本編ノーカット放送
出演:トム・クルーズ、ダグレイ・スコット、タンディ・ニュートン、ヴィング・レイムス、リチャード・ロクスバーグ、ジョン・ポルソン、ブレンダン・グリーソン、ラデ・シェルベッジア、ウィリアム・メイポーザー、ドミニク・パーセル、アントニオ・バルガス、アンソニー・ホプキンス
監督:ジョン・ウー
脚本:ロバート・タウン
原案:ロナルド・D・ムーア、ブラノン・ブラーガ
原作:ブルース・ゲラー
製作:トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー
製作総指揮:テレンス・チャン、ポール・ヒッチコック
音楽:ハンス・ジマー
テーマ曲:ラロ・シフリン
©2024 Paramount Pictures. All rights reserved.

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