『光る君へ』松下洸平の哀しみに満ちた笑顔 まひろに“心を開けない”周明の切なさ
『光る君へ』(NHK総合)第23回「雪の舞うころ」。まひろ(吉高由里子)と為時(岸谷五朗)のもとへやってきた周明(松下洸平)は、朱(浩歌)は三国(安井順平)を殺していないと日本語で主張し、まひろと為時を驚かせた。為時によって解放された朱は、為時だけに越前に来た本当の理由を語り出す。一方、周明もまひろに自分の過去を語った。
松下演じる周明はどこか影のある印象だ。対馬に生まれるも口減らしのために海に捨てられ、宋の船に拾われて生き延びたが、牛や馬のように働かされた。優しい薬師に助けられたことで見習い医師になった周明だが、その壮絶な生い立ちが明かされたことで、周明の目つきが他人を窺い見るようなものに見えたり、他者と一定の距離を保とうとしているように見えたりするのも合点がいく。
周明を演じる松下の立ち居振る舞いは、周明の本心がどこにあるかわからないといった謎を残すが、対立する相手や尊敬の念を抱く相手への心の向け方ははっきりしている。たとえば周明が為時と光雅(玉置孝匡)らとともにいた時、朱の力を奪おうとした光雅に対する口ぶりは冷静だったが、周明のまなざしから対立関係であることは明らかだった。しかし「朱様は無実です。早くお解き放ちを」と為時に訴える語気には、周明の朱を慕う心がはっきりと感じ取れる。
そんな周明だが、好奇心旺盛なまひろに対しては、これまで出会ってきた人々とは違う何かを感じているように思う。まひろとのやりとりにおいて、松下は周明が元来心優しい人物なのだろうと思わせる、やわらかで切ない表情を見せた。宋の人々が持ってきた数々の品物をまひろに教えていた時、その口調には同世代の友人と仲良く語らうような距離感を覚える。しかし宋についてもっと知りたいとせがむ無邪気なまひろを見て、一線を引かなければならないと思ったのかもしれない。周明はふと優しい表情を見せ、「不要相信我(俺を信じるな)」と言った。松下の声色と彼がまとうもの悲しげな雰囲気に胸が締め付けられる。
この場面に限らないが、松下の優しげな面持ちは温かみを感じさせるだけではなく、彼の悲しい背景や越前国と宋の関係を思い起こさせるような哀しみも満ちている。宋語を教える場面での楽しげな様子や、まひろと火鉢を囲む場面で、まひろの手に触れ、「風邪をひくな」と言葉をかけた時の様子に、まひろへの好意が一切ないとは思えない。
だが、周明は宋のための任務を負っているからこそ、完全に心を開くことはない。まひろの手に触れる場面では、思いがけぬ出来事に戸惑うまひろの姿に、相手を特別な存在として意識する瞬間を垣間見たようで胸がときめく一方、周明の本心が読み取れずに不穏な感じを覚える場面でもあった。公式ガイドブックで松下は「周明の本心がどこにあるのか分からないように演じています」とコメントしているが、まさにその言葉通りの場面である。
まひろと出会ってから、周明の心は常に揺れ動いているように思う。まひろと左大臣・道長(柄本佑)が深い関係にあることを察した周明は、朱に「まひろを利用して左大臣に文を書かせる」と伝えた。朱と向き合う周明からは、朱への深い忠義心が感じられる。だが、朱に深々と頭を下げた時、周明は何らかの感情を押し殺すかのように瞳を閉じた。恋心かどうかは定かでないが、まひろへの好意はあるはずだ。まひろを利用することに罪悪感を覚えたのではないか。観る者にさまざまな解釈を与える、松下の奥深い表現に心が揺さぶられる。