『虎に翼』吉田恵里香は寅子以外の人生も描き切る 『ぼざろ』でも発揮された人物描写力

『ぼっち・ざ・ろっく!』を名作にした構成力

 実写、アニメを問わずさまざまなジャンルの脚本を担当しているのは、脚本技術に信頼があるからだろう。特に2022年冬に話題を集めた『ぼっち・ざ・ろっく!』からは、『虎に翼』にも生かされている“女性同士の関係性”を描くうえでの高い人物描写力と構成力を感じることができる。

 アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の原作は、女子高生がバンド活動に情熱を注ぐ姿を描いた4コマ漫画だ。根暗でコミュ障な主人公・後藤ひとりが、1人でギターを弾いていたところから、結束バンドのメンバーと出会い、バンドのギタリストとして、少しずつ成長していく物語だ。

 原作のコメディの要素を損なわずに、青春スポ根ジャンルとしての魅力を強めてアニメ化できたのは、登場人物の感情がわかりやすくなるようなエピソードの入れ替え、セリフの付け足しなどの脚色があったからと言えるだろう。ドラム・伊地知虹夏の姉やライブハウスへの想い、ベース・山田リョウの過去に所属していたバンドに対する後悔や、ギターボーカル・喜多郁代のギター技術に対する引け目、ひとりへの尊敬の念など、それぞれの抱える葛藤や感情が深く伝わってくるのだ。

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 ひとりを主人公としながらも、他のバンドメンバーたちの感情を際立たせることで、結束バンドの関係性の発展や成長に説得力が生まれ、物語はより味わい深いものになっていた。原作ファンにとっても違和感なく、よりわかりやすくなるように構成された脚本は、『ぼっち・ざ・ろっく!』が高い人気を誇っている要因の一つだ。

“女性同士の関係性”の描写の丁寧さ

 女性同士の関係性という点で言えば、前述した『恋せぬふたり』でも主人公・咲子(岸井ゆきの)と親友・千鶴(小島藤子)の関係性が繊細に描かれている。咲子は千鶴に対して友情を、千鶴は咲子に対して恋心を持っていたことで2人は離れることになる。千鶴の気持ちがわからないまま離れたことに悩み、友達のままでいたい咲子の想いも、咲子に恋心をぶつけたくないと離れることを選んだ千鶴の想いも、丁寧に描写されていた。

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 2人の友情をしっかりと描きつつ、千鶴が咲子に恋心を抱いていることを自覚するシーンも差し込むことで、言いようもない苦しさを描き出していた。

 吉田はこれまでさまざまな作品を通して、セリフやシーンの端々に人物像を描写し、より魅力的に人物の感情が伝わるように組み合わせる構成力を発揮してきた。『虎に翼』で、たった15分、週5回の放送尺のなかでも寅子以外の人物にも心が揺さぶられるストーリーを支えているのは、これまでの経験に裏打ちされた吉田の脚本技術によるものなのだ。

 これまで『虎に翼』は、昭和初期に法曹界で生きた人や時代の流れ、当時の法律に翻弄された人たちのドラマを紡いできた。吉田恵里香は全話を通して何を視聴者に届けるのだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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