當真あみ×奥平大兼『ケの日のケケケ』を見逃すな! 自分を“ごきげん”にする一歩のために

 このドラマのアウトラインは、「感覚過敏の高校生を主人公とした青春ドラマ」となっている。しかし実は、大人にこそ観てほしい、そして、大人にこそ突き刺さる作品だ。今や聞いて久しい「多様性の重視」というスローガンは、言葉だけが一人歩きして、形骸化してはいないだろうか。真の「多様性の重視」とは何なのか。本当の「自由」とは何なのか。そんなことを、あまねと進藤の行動を通じて、考えさせられる。大人たちが作ったこの社会には何が足りないのか、突きつけられる。

 當間あみが演じるあまねと、奥平大兼が演じる進藤の「今、この瞬間しかない」煌めきと、みずみずしい佇まいに心を奪われる。ふたりが自らの来し方と「かつて不機嫌モンスターだった時期」について述懐しあう夕暮れのシーンは、「不機嫌」に支配された世界を生きる全ての人に捧げたい名シーンだ。あまねと進藤の言葉を通じた作者の、現代の若者の、そして生きづらさを抱える全ての人の、おだやかな反撃、静かな怒り、人間としての根本的な欲求に、耳を傾けてほしい。

「世界を動かそうと思ったら、まず自分自身を動かせ」

 劇中に登場する、とある哲学者の師匠のそのまた師匠であるソクラテスは、こう言った。言い換えれば、「世界をごきげんにしようと思ったら、まず自分自身をごきげんにしろ」ということではなかろうか。一見小さく思えるひとりの「一歩」が、やがて回り回って、世界を変えるかもしれない。森野マッシュという20代の脚本家が、デビュー作からこんなにも「人間の本質」「本当の優しさ」について精緻に描き出せることに感嘆する。こうした作家がいる限り、日本のドラマ界の未来は明るい。そう思わせてくれる秀作だ。

■放送情報
創作テレビドラマ大賞『ケの日のケケケ』特別版
NHK総合にて、5月3日(金) 13:05〜放送
※49分再編集版
出演:當真あみ、奥平大兼、小宮山莉渚、望月歩、中井友望、伊礼姫奈、岡山天音、山田キヌヲ、板橋駿谷、尾野真千子
作:森野マッシュ
音楽:Ryu Matsuyama
演出:堀切園健太郎(NHK エンタープライズ)
制作統括:落合将(NHK エンタープライズ)、遠藤理史(NHK)
写真提供=NHK

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