時代劇などでクレジットされている「かつら」の仕事とは? 『光る君へ』担当者に聞く
「かつら」を伝統として継承していくために
――今回のインタビューのきっかけの一つになったのが、柄本佑さんが『光る君へ』のインタビューで「地毛じゃないとできないことがある」というようなニュアンスのことをおっしゃっていて。それはどんな点でしょうか?
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宇津木:襟足ですね。今はかつらの毛と地毛を組み合わせるような形で境目がわからなくなるような技術もできたのですが、やっぱり地毛だけの方とは違います。かつらの場合だと、後頭部から襟足にかけて多少の厚みがあるのですが、地毛だと厚みもなく、綺麗なはえぎわが出来ます。かつらを触ったりしても崩れるようなことはないですが、地毛のほうができることが多いのは確かです。もちろん、出演者の方全員が地毛で行うことは不可能なので、制限のないかつら作りを我々は目指しております。
――地毛の方が一定数いるとお聞きしていますが、実際どれぐらいの方が地毛なんでしょうか?
宇津木:道長(柄本佑)さん、実資(秋山竜次)さん、道兼(玉置玲央)さん、俊賢(本田大輔)さんの4人は地毛で結ってます。
――反対に『光る君へ』のキャストで、かつらが一番似合う方は?
宇津木:これはご本人にも話したのですが、源倫子を演じる黒木華さんはどの時代を演じても似合います。江戸時代のかつらも似合うし、今回の源倫子でも「今はもう平安顔だよね」っていう話をちょうどこの取材前にしていました(笑)。
――『光る君へ』のキャラクターの髪型で一番“特殊”だと感じたのは誰かも教えてください。
宇津木:特殊な髪型……安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の従者・須麻流(DAIKI)のクリクリヘアでしょうか。元々、ご本人がパーマをかけてらして、クリクリヘアだったんです。須麻流って、どこか不思議な存在じゃないですか。じゃあもうそれを活かそうっていうので、クリクリヘアにそのまましました(笑)。
――男性キャストのみなさんは烏帽子を被っています。一見、烏帽子で隠れる分、普段より作り込まずでも大丈夫なように思ってしまいますが……。
宇津木:それがそうではないんですよ。『光る君へ』では美術チームの方が烏帽子を新調して、透ける形のオシャレなものに仕上げてくれたんです。昔は烏帽子を被ったら何も見えなかったので、ある意味手を抜ける部分もあったんです。でも、今の烏帽子は透けるので、烏帽子をかぶるとしてもきちんと作り込まないといけません。実は髷(もとどり)を巻いている紐の色もキャラクターごとに変えているんです。実資さんはピンク色で、立烏帽子の時は淡いピンクで、冠になるとそれが薄らいで見えなくなるから、濃いめのピンクに変えたり。非常に細かい箇所ですが、誰が何色になっているかチェックしていただけたらうれしいですね。
――花山天皇を演じる本郷奏多さんは、出家して髪を下ろしますが、あの剃髪はかつらではなく特殊メイクだと聞いています。その特殊メイクの技術と宇津木さんたちのかつらの技術が合わされば、また違った表現も?
宇津木:はい。すでに実践はしていて、月代の部分だけは特殊メイクさんにやってもらって、その上からかつらを被せたり。少しずつ月代の材料も変わってはきてるんですけど、昔のものだと長時間持たずに崩れてきて、シーンごとに直しに行かなきゃいけないんです。特殊メイクの技術だと、ちょっとの手直しで済んだり、崩れにくかったりします。それぞれの技術を組み合わせながら、よりリアルな時代劇を作れるようになっていると思います。
――その一方で時代劇を形作るスタッフの方々の後継者問題もあると聞きます。
宇津木:まさにそうです。「かつら」とクレジットされるようになったのは最近ですが、最初は「なんだろうこれ?」ぐらいのきっかけでもいいので興味を持っていただけたらうれしいですね。私自身もひとりの職人として、伝統を受け継ぎ継承していかないといけないと思っています。
――どうしても入口が分かりづらいイメージがありますが、宇津木さんがそうだったように、ヘアメイクを志していた方がかつらを担当することもできるわけですよね。
宇津木:今年入ってくれた新人も、興味はあったけど入口が分からなかったと話していて。ヘアメイク経験や美容師資格がある方は、決して遠い世界ではないと思うので、やりたいと思っていただけたら「来て!」という思いです。このインタビューを通しても、こんな仕事があるんだよということを多くの人に知っていただけたらうれしいですね。
■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK