『光る君へ』ユースケ・サンタマリアの安倍晴明は絶品だ 毎回うさん臭い大河の「あきら」
「パッと見、うさん臭くて信用ならないが、どうやらそれだけではなさそうだ」という人物を演じさせたら、ユースケ・サンタマリアは天下一品である。特に『麒麟がくる』における、朝倉義景の初登場時のうさん臭さは必見だ。
高い元結にピンクの着物、大物ぶって常に笑顔だが、意に沿わないとすぐにスネる。志村けんのバカ殿様が、大河に降臨したような風情だった。クソ真面目な明智光秀(長谷川博己)との、「そなた、金がいるのであろう? くれてやろうぞ!」「いただく理由がございません!」のやり取りが、何度観てもツボにハマる。
だが、初登場時こそバカ殿然としていた義景だが、織田信長(染谷将太)との戦いが深まるにつれ、本来のサムライぶりを発揮していった。その最期も、先述の景鏡の裏切りにより、元・家臣たちに取り囲まれて銃口を向けられる。だが、そんな状況でも一切騒がず慌てず取り乱さず。
「ぬしら、誰に筒先を向けておる……。(略)わしは朝倉宗家、朝倉義景じゃー!!」
このシーンが思いのほかカッコよく、「わが生涯に一片の悔いなし!!」の時のラオウに見えた。
バカ殿からラオウ、この振り幅こそが、ユースケ・サンタマリアの真骨頂である。
寺山修司のボクシング小説を、映画『正欲』の岸善幸が映像化した、『あゝ、荒野』(2017年)も必見だ。
この作品のユースケは、閉鎖寸前のボクシング・ジムの会長である。初登場時は、他人のジムの前で自分のジムのビラを配っている。片目が潰れているため、常に黒いサングラスをかけている。もうゾクゾクするほどうさん臭い。
元・半グレの新次(菅田将暉)と、吃音症の理髪師・健二(ヤン・イクチュン)を、なかば無理矢理ジムに連れてくる。ケンカ自慢の新次にグローブをはめ、スパーリングで叩きのめす。
「引退して18年。そんな俺にパンチひとつ当てられねーのが、今のお前。……やろうぜ、ボクシング!」
おとなしく言うことを聞かないであろう相手に、まず力の差を見せつける。「うさん臭いのに実は強い」というギャップが、たまらない。飄々として人を食ったキャラなのに、実はめちゃくちゃ強い師匠。初期ジャッキー・チェン作品の蘇化子(赤鼻の師匠)みたいである。で、ありながら実は恋愛には純粋だったりもして、その辺のギャップも魅力的だ。
「パッと見のうさん臭さと本質とのギャップ」という、ユースケ・サンタマリアの本来の魅力が詰まった作品だ。前後編合わせて5時間強の大作だが、おすすめである。なにも予定のない休日などに、一気観するといいだろう。
このようにユースケ・サンタマリアの演じる役柄は、「初見はうさん臭いのに最終的にはカッコ良く見えてしまう」というパターンが散見される。
『光る君へ』の安倍晴明も、これからさらに本領を発揮することが予想される。ワクワクするではないか。
発揮しなかったら、申し訳ない。
■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK