『春になったら』は“死”に対する価値観を変えてくれた “心に溶け込む”奈緒の自然体な演技

『春になったら』が変えた死に対する価値観

 『春になったら』が、わたしたちの心にスーッと溶け込んできたのは、瞳を演じている奈緒が自然体だからだと思う。変わり者の雅彦とのバランスが、本当に良かった。たとえば、雅彦が変なことを言い出したときの呆れたような表情や、恋人の一馬の前で見せるちょっぴり甘えたような目つき。台詞がないところでも、奈緒はしっかり瞳になりきっていて、同世代から見ても「こういう子、いるよね」とナチュラルに思うことができた。そのおかげで、わたしたちは『春になったら』の世界観により没入することができたのだと思う。

 調味料にたとえるなら、本作で奈緒は味噌のような役割を担っていた。胡椒のように刺激的な雅彦をまったりと封じ込めながらも、自身も味わいを発揮する。奈緒は、作品によって土台を作る出汁にもなれるし、アクセントを加えるスパイスになることもできる役者だ。そして、砂糖のようにとびきり甘い女の子を演じることも。木梨憲武とのW主演を経験して、確実に幅を広げた奈緒が、次にどんな境地に挑むのかも楽しみだ。

 さて、まもなく最終回を迎える『春になったら』。現実離れした大きな奇跡は起こさない本作のことだから、雅彦の死は確実に訪れてしまうのだろう。ただ、雅彦と瞳はこれまで小さな奇跡をたくさん起こしてきた。もう見ることができないと思っていたタイムカプセル。気まずくなっていた旧友の神(中井貴一)と、またあの頃のような関係に戻ることもできた。たくさんの小さな奇跡を持って、雅彦はあの世へと旅立っていく。

 雅彦の余命を聞いたとき、「お父さんがいなくなったら、どうすればいいの?」と泣いていた瞳が、「もう、大丈夫だよ。わたしは」と笑顔で伝えられるようになったのは、きちんとお別れする時間があったから。後悔のない死、なんていうものはないけれど、瞳と雅彦は全力で後悔のない死に近づくことができた。悲しいはずの物語なのに、『春になったら』を観ていると温かい気持ちになれるのはなぜだろう。その答えは、3月25日の最終回を観たあとに分かるような気がしている。

■放送情報
『春になったら』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:奈緒、木梨憲武、深澤辰哉、見上愛、西垣匠、影山優佳、矢柴俊博、光石研、橋本マナミ、筒井真理子、小林聡美、濱田岳
脚本:福田靖
音楽プロデューサー:福島節
主題歌:福山雅治「ひとみ」(Amuse Inc. / Polydor Records)
監督:松本佳奈、穐山茉由
プロデューサー:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)
音楽プロデューサー:福島節
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト: https://www.ktv.jp/haruninattara/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/haru_ktv
公式Instagram:https://www.instagram.com/haru_ktv/

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