『ピアノ 2 Pianos 4 Hands』に誰もが夢中になる! 世界を魅了したミュージカルを映画館で

 リアルサウンド映画部でこうして記事を読んでいる皆さんは、日頃から頻繁に映画館に足を運んでいることだろう。しかし映画館でいわゆる“映画以外”のものを観たことがある人は、どのくらいいるだろうか。

 2003年ごろから日本で始まった「ライブビューイング」は、演劇やイベントを映画館で楽しむ形式だ。2004年に劇団☆新感線の『髑髏城の七人〜アカドクロ』が、「ゲキ×シネ」第1弾として公開されたのを皮切りに、2005年には松竹が「シネマ歌舞伎」第1弾『野田版 鼠小僧』を公開。その後、瞬く間にさまざまな演劇や歌舞伎の演目が映画館で楽しめる機会が増えた。海外では、2006年にニューヨークにある名門オペラハウス、メトロポリタン歌劇場がいち早く「ライブビューイング」を取り入れ、その後、英国ロイヤル・バレエやパリ・オペラ座など、世界各地に広がった。コロナ禍を経て、近年では演劇をはじめとする舞台芸術のみならず、音楽やお笑いのライブなどを含む、さまざまなイベントが各地の映画館で楽しめるようになっている。

 そんななか、オフ・ブロードウェイで6カ月ものロングランを記録し、全世界200都市での公演で世界中の観客を魅了したミュージカル『ピアノ 2 Pianos 4 Hands』が「松竹ブロードウェイシネマ」作品として、3月22日から全国の映画館で順次公開となる。

「松竹ブロードウェイシネマ」とは?

 「松竹ブロードウェイシネマ」は、ニューヨークはブロードウェイの人気ミュージカルを、日本の映画館で上映する企画だ。日本では、映画以上に観劇はハードルが高い印象があるが、そのハードルをぐっと下げて本場のミュージカルを映画館で体験できる。観劇のハードルの高さは、そのチケット価格の高さにも関係しているだろう。

 例えば日本を代表する、ミュージカルをメインに公演を行っているある劇団では、演目や日程によって多少の違いはあるが、いちばん安いC席で4,500円〜5,500円の料金がかかる。いちばん高いS席となると11,000円〜14,000円と高額だ。またとくにC席は、座席の位置によっては舞台が見えにくい場合もあり、当たり外れがある。しかし「松竹ブロードウェイシネマ」なら、料金は一律3,000円。もちろん舞台を収録した臨場感のある映像を上映するので、座席の当たり外れもない。それ以前にブロードウェイのミュージカルを観るために現地まで足を運ぶことを考えると、この料金は破格だ。

 これまで「松竹ブロードウェイシネマ」では、伝説の歌姫ビリー・ホリデイの最後のパフォーマンスを描く『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』や、日本人キャストによる日本版も大ヒットした『キンキーブーツ』のブロードウェイ版などを上映してきた。そんな「松竹ブロードウェイシネマ」が今回お届けするのが、ミュージカル界でも異彩を放つカナダ発の傑作『ピアノ  2 Pianos 4 Hands』だ。

全世界で4000回以上上演された『ピアノ 2 Pianos 4 Hands』

 『ピアノ 2 Pianos 4 Hands』は、カナダ発の大人気ミュージカル。1994年にテッド・ダイクストラとリチャード・グリーンブラットは、本作の制作に向けて、「トーキングハンズ」を結成した。1996年4月に初日の幕が上がると、批評家から絶大な支持を受け、チケット完売回続出の人気作品に。その後、カナダでの全国ツアーを経て、1997年にはニューヨーク、オフ・ブロードウェイに進出。6カ月におよぶロングランの末、1998年にはワシントンD.C.のザ・ケネディ・センターでの上演を果たした。さらに1999年には英国のバーミンガム・レパートリー・シアターでヨーロッパ初演を果たし、同年秋にはロンドン、ウェストエンドにあるコメディ・シアターでも上演された。日本でも2004年と2012年に2度の全国ツアーを敢行し、世界各国にある200もの劇場で4000回以上に渡って上演。カナダの演劇史上、もっとも成功した作品と言われている。今回上映されるのは、実に30年に渡って世界中で愛された本作の締めくくりとなった、2013年の最終公演を収録したものだ。

『ピアノ 2 Pianos 4 Hands』の唯一無二の魅力

 ミュージカルというと、豪華なセットや数多くのきらびやかな衣装、大人数によるアンサンブルなどを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。しかし今回公開される『ピアノ  2 Pianos 4 Hands』は、大掛かりなセットも大人数のアンサンブルもない。極めて限定された、洗練されたと言ってもいい、ミニマルなミュージカルとなっている。登場するキャストはたった2人。セットはグランドピアノ2台とその背景に大きな2つの額縁だけ。たったこれだけの舞台装置で衣装チェンジもなく、2人の男の、子ども時代からピアニストとして成長していく姿を見せてくれる。

 限定されたセットと衣装を身に纏ったキャスト2人は、その巧みな演技と華麗なピアノ演奏で、物語をぐいぐいと引っ張っていく。まず、彼らの子ども時代。一応幼少期にピアノを習っていた筆者としては、さっそく笑ってしまうシーンがあった。「どのようにピアノの鍵盤に手を乗せるべきか」というのは、簡単そうで最初は難しい。というより、言葉だけで説明されても意味がわからないのだ。ピアノを習い始めたばかりのその戸惑いを、2人は少年になりきってコミカルに演じている。筆者も子どものころを思い出して思わず笑ってしまった。

 また、キャストは2人だけと言ったが、登場人物は2人だけではない。彼らの親やピアノの先生、音楽学校の試験官なども、それぞれが3〜4役をこなしながら物語は進んでいく。さまざまなキャラクターを演じるキャスト2人のスムーズな変貌ぶりには、大いに驚かされる。外見上の変化といえば、衣装のジャケットを脱いだり着たりするだけだが、演技だけで性別や年齢も全く違うそれぞれのキャラクターを演じ分けるその巧みさは、一見の価値がある。

関連記事