第96回アカデミー賞受賞結果を現地ライターが直前予想 『オッペンハイマー』が頂点に?
監督賞
ジュスティーヌ・トリエ『落下の解剖学』
マーティン・スコセッシ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
★クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』
ヨルゴス・ランティモス『哀れなるものたち』
ジョナサン・グレイザー『関心領域』
監督賞もクリストファー・ノーラン一択。長年苦楽をともにしてきたワーナーと袂を分ち、新しいパートナーのユニバーサルに北米のIMAX全スクリーンを3週間独占させ、世界興行収入9億5,000万ドル超を叩き出した男。パンデミックとストライキでボロボロだった映画業界を救った功績に、誰も異論はないだろう。企画力・演出力が高く評価されるノーラン監督だが、賞レースには縁がなく、今まで壇上に立った経験は『ダークナイト』(2008年)の故ヒース・レジャーの代理受賞のみだったという。
脚色賞
●コード・ジェファーソン『アメリカン・フィクション』
★グレタ・ガーウィグ、ノア・バームバック『バービー』
クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』
トニー・マクナマラ『哀れなるものたち』
ジョナサン・グレイザー『関心領域』
期待を込めてグレタ・ガーウィグを指名。実際のところは『アメリカン・フィクション』優勢。だが、『オッペンハイマー』の大ヒットは『バービー』なくして成し遂げられなかったし、『バービー』のポストフェミニズムを鮮やかに描いた脚本は、グレタ・ガーウィグでなければ描けなかった。監督賞にノミネートされなかったことでバックラッシュも起きていたが、ノア・バームバックの名アシスト含めて、彼女の真骨頂は脚本力だと思う。あまりにもアメリカンな『アメリカン・フィクション』がBAFTA(英国アカデミー賞)を受賞するというサプライズも起きたが、米国外会員の票が決め手になりそう。
脚本賞
★ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ『落下の解剖学』
デヴィッド・ヘミングソン『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
ブラッドリー・クーパー、ジョシュ・シンガー『マエストロ:その音楽と愛と』
サミー・バーチ『May December(原題)』
▲セリーヌ・ソン『パスト ライブス/再会』
2023年1月のサンダンス映画祭、2月のベルリン映画祭、6月の劇場公開から1年以上も支持され続けてきた『パスト ライブス/再会』のセリーヌ・ソン。インディペンデント界の新星誕生に沸き、例年だったら脚本賞は間違いないのだが、今年に限っては『落下の解剖学』という巨大な敵が立ちはだかる。実生活でもパートナーであるジュスティーヌ・トリエとアルチュール・アラリが描いた「夫婦の世界」は、ゴールデングローブ賞で脚本賞と非英語映画賞を受賞してからどんどんパワーアップし、アカデミー賞でも作品賞を含む5部門でノミネート。そのうち脚本賞受賞の可能性が最も高い。劇中でスヌープを演じた犬のメッシを担ぎ出したキャンペーンも大きな話題となった。
国際長編映画賞
『Io Capitano(原題)』(イタリア)
『PERFECT DAYS』(日本)
『雪山の絆』(スペイン)
『ありふれた教室』(ドイツ)
★『関心領域』 (イギリス)
フランス語と英語が使用言語で、主演女優はドイツ人。まさに国際長編映画賞向きの『落下の解剖学』は、フランス代表に選ばれなかったため候補外になり、昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリ(次点)を受賞した『関心領域』が浮上した。毎年のことながら、88カ国から選出された選りすぐりの5本なので、作品のクオリティ的にはどれが獲ってもおかしくない。あえて対抗を挙げるとすると、ヴィム・ヴェンダース監督作品の北米興収記録を塗り替えている『PERFECT DAYS』と、Netflixがスペイン語圏に向けて猛烈アピールしている『雪山の絆』。国際長編映画賞は、各国の代表選出から15本のショートリスト入り、そしてノミネートに至るまでのパワーバランスの移行が最もエキサイティングな部門である。
視聴効果賞
●『ザ・クリエイター/創造者』
★『ゴジラ-1.0』
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
『ナポレオン』
北米興収5,642万ドル(約84億円)を超えた『ゴジラ-1.0』の視聴効果賞受賞は、サプライズが一切期待できない今年のオスカーで、唯一サプライズと呼べる結果になりそう。VES(視覚効果協会)賞は『ザ・クリエイター/創造者』が制したが、アカデミー賞では約9300人のAMPAS投票会員が直接投票する。つまりVFX専門家の目ではなく、映画業界全体の意見が反映されることになる。山崎貴監督ら4名の白組のVFXクリエイターは、映画制作における創意工夫や人材育成を楽しそうに語り、いつも笑いの絶えないプロモーション活動を行っていた。ゴジラおよび彼らを祝福する空気が醸成され始めている。
長編アニメーション賞
●『君たちはどう生きるか』
★『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
『ニモーナ』
『マイ・エレメント』
▲『ロボット・ドリームズ』
ゴールデングローブ賞、BAFTAなど米国外会員が選ぶ賞では強さを示してきた『君たちはどう生きるか』だが、アニー賞を制覇したあたりから『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が強さを増している。現在のオッズは『スパイダーマン』有利だが、AMPAS国外会員の趣向を考えると勝算はある。宮﨑駿監督は前哨戦にも出席せず、アワードキャンペーンを一切行ってこなかったが、オスカーウィークの長編アニメーションパネルにビデオメッセージで登場。
そして、大穴はスペインのパブロ・ベルヘル監督の『ロボット・ドリームズ』。ノミネートされただけでも大金星だったが、映画を観た人がみんな大絶賛で、鑑賞者が増えれば大どんでん返しもあり得るかも。こういうサプライズに期待したい!
作品賞
『アメリカン・フィクション』
『落下の解剖学』
『バービー』
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『マエストロ:その音楽と愛と』
★『オッペンハイマー』
『パスト ライブス/再会』
『哀れなるものたち』
『関心領域』
今年のアカデミー賞作品賞の応募資格を得た321本の頂点に立つのは、やはり『オッペンハイマー』。作品賞を受賞するのはプロデューサー。『バービー』のマーゴット・ロビー、『哀れなるものたち』のエマ・ストーン、『落下の解剖学』のマリー=アンジュ・ルシアーニ、『パスト ライブス/再会』のクリスティーン・ヴァションなど、女性プロデューサーが活躍した作品が多い。天才肌のノーラン監督を支え、牽引し、映画のクオリティだけでなく興行収入でも成果を出したプロデューサー、エマ・トーマスがスピーチの最終調整を行っている頃だろう。だが、『ラ・ラ・ランド』と『ムーンライト』の封筒取り違え事件や『アルゴ』や『コーダ あいのうた』の監督賞ノミネートなし受賞など、ハプニングと選好投票が運命の悪戯を仕掛けるのも作品賞。AIには予測できないドラマが生まれるのも、アカデミー賞の醍醐味だ。
参照
※1. https://deadline.com/2023/07/ampas-assures-membership-of-its-commitment-to-diversity-issues-in-email-1235439088/
※2. https://moviewalker.jp/news/article/1175106/
※3. https://www.hollywoodreporter.com/lists/oscars-winners-odds-ben-zauzmer-2024-math/