『宮古島物語ふたたヴィラ』の撮影で起きた奇跡 上西雄大監督が語る「再会」というテーマ
そこに泊まると心から願う再会を叶えてくれるという沖縄・宮古島の不思議なリゾートヴィラを舞台に、人と人のつながりと苦境に立つ人々の人生の新たな一歩を描いた映画『宮古島物語ふたたヴィラ』。ミラノ国際映画祭とマドリード国際映画祭で共に2冠に輝くなど、海外で高い評価を受け、日本でも2023年に公開されて話題を集めた同作の続編が早くも劇場公開となる。
前作に続き、シリーズ第2弾となる『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』を手掛けたのは、上西雄大監督。『西成ゴローの四億円』『ひとくず』など自ら主演を兼務しながら監督作を精力的に発表している彼に、作品について語ってもらった。
「宮古島には人と人とを結びつける神秘的な力がある」
ーー上西監督と共に主演を務められている柴山勝也さんはもともと役者ではなく、映画の舞台となっている宮古島のリゾートヴィラやリゾートマンションを手掛ける会社の会長とお聞きしています。どういうきっかけでつながることになったのでしょうか?
上西雄大(以下、上西):僕にとって柴山会長は大恩人。僕が映画人として世に出るきっかけになった『ひとくず』の父とお呼びしています。出会ったきっかけは『ひとくず』の劇場公開前のこと。『ひとくず』は、公開が決まったものの自主製作映画だったので、宣伝費が捻出できないでいました。そこでいろいろな人にDVDをお送りして、宣伝費のお金を出してくださる方を探したんです。そのとき、手をあげて助けてくださったのが柴山会長でした。ほんとうに会長の助けがなかったら、『ひとくず』はここまで広く全国の劇場で上映できなかったと思います。
ーー今回の企画へはどう結びついていったのでしょう?
上西:柴山会長はものすごく宮古島のことを愛されていて、ある時、相談されたんです。「自分は宮古島のことをもっとみんなに知ってもらいたい。自分の所有しているリゾートヴィラやマンションを使ってくれていいし、いろいろと全面協力するから、宮古島を舞台にした映画は撮れないだろうか」と。プラス「エキストラでいいから自分も出演させて」と言われたんですけど(笑)、受けた僕としては大恩人の願いですから叶えたい。恩返しだと思って脚本をすぐに考え始めました。
ーーその物語の大きなポイントは、第1作でも第2作でも舞台となるヴィラ。ここは宿泊すると心から願う再会を叶えてくれる場所に設定されています。このファンタジックなアイデアはどこから生まれてきたのでしょう?
上西:会長から相談を受けたのは、『ねばぎば 新世界』(2021年)の撮影中のことでした。一部を宮古島でのロケ撮影にしていて、そのときも会長にご協力いただいていたんです。で、これが不思議なんですけど、宮古島入りしたら、ふだん大阪や東京にいてもさっぱり会うことのなかった友人に立て続けに会ったんですよ。たまたま彼らも宮古島に来ていて。そのとき、この島には人と人とを結びつける神秘的な力があるんじゃないかと考え、そこからアイデアが一気に膨らんで、今のストーリーを構成する要素が入った形のプロットを書き上げていました。そして、翌日には会長に渡していました。「こんなのでどうでしょう」と。
ーー宮古島には、上西監督がインスピレーションを刺激される何かがあった?
上西:そうですね。もともと宮古島に撮影に行こうと思ったのも、沖縄でやってみたら映画の世界観がちょっと変わるかもしれないと考えたからなんです。東京や大阪とは違う土地の基準みたいなものを入れることで、映画に新鮮味が出てこないかなと。ちょうどそんなことを考えているときで、実際に行ってみたら、いきなり会えていなかった友人に会ったり、会長にそんなうれしい申し出を受けたりと、創作意欲がわっと湧いてきた。それから、監督目線で言うと、宮古島は目につくところすべてが「いい画」になる。「ここでこんなシーンを撮りたい」と思う場所があちこちにあるんです。その影響もあったかもしれません。あと、主題となる「再会」に関して言うと、コロナ禍の影響が大きかったですね。当時、コロナでお亡くなりになり、ご家族に看取られることなく遺灰になってご自宅に戻ってきたというニュースがずっと忘れられないでいました。そのとき、改めてもう一度会いたい人って誰にでもいるんだろうなと思いました。そのことが「再会」というテーマにつながっていった気がします。
ーー前作『宮古島物語ふたたヴィラ』は、ミラノ国際映画祭2021で外国語映画最優秀男優賞と外国語映画最優秀作品賞を、マドリード国際映画祭2022では最優秀賞、最優秀女優賞をW受賞しました。
上西:驚いたのはミラノでの柴山会長の外国語映画最優秀男優賞の受賞ですね。僕ら役者としては、会長に「やられた!」といった感じでした。でも、うれしかったです。会長は人生経験豊富で、独特の存在感があるので、そこにいるだけでいいというか。背中で何かを語ることができて、相手を見る表情や眼差しでなにかを伝えることができる。それを最大限に生かそうと考えてできたのが、セリフが一切ない貴吉という人物なんです。柴山会長の魅力が海外の方にも伝わったのはうれしかったです。受賞のとき、会長は「役者じゃない自分がもらっていいものなのか」とおっしゃってましたけど、受賞に値すると思います。
ーーそういった評価を受けたことが続編に繋がったのですか?
上西:大きかったのは、宮古島チャリティー映画祭でした。宮古島の映画だから宮古島の方に観ていただきたいという柴山会長の思いから立ち上げられた映画祭で、そこで特別上映することになったんです。これが大反響で、上映が終わったらいつまでも拍手が鳴りやまない。もう感極まってしまって、僕も会長も舞台で大泣きしてしまったんですよ。このとき、これだけ宮古島の方が喜んでくれるなら、もう一度やらないとと会長も僕も心を決めました。