『劇場版ハイキュー‼ ゴミ捨て場の決戦』の主役は紛れもなく研磨だ “本気”の粋な演出

 『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』を、研磨の物語として語るならば、黒尾鉄朗こと“クロ”との絆も欠かせない要素である。クロは幼少期から口数の少ない研磨の内面を理解し、彼をバレーボールの世界へと導いた存在でもある。2人はバレーボールを通じてお互いを補完しながら、最高のパートナーとして成長していく。烏野チーム内で言えば、月島と山口にも同様のものを感じるが、お互いの違いを信頼し合うバディ感が素晴らしい。何より、研磨は熱血揃いの『ハイキュー!!』の中では異色の存在であるが、クロの存在が彼を大いに支え、成長させる原動力であったことが痛いほどに伝わってきた。

 映画の最大の見どころはラストの研磨目線で描かれる、1シーン1カットの試合終了までの迫力ある描写だろう。研磨の視線はボールに釘付けで、まるで観客が彼の視点でコートに立っているかのような臨場感を味わわせる。

 体力の限界によって歪みそうになる視界、必死にボールを追う選手たちの姿、高く舞い上がるボールとともに見える天井……そこから伝わってくるのは、一瞬たりとも目を離せば追いつけなくなる試合のスピード感だ。そんな試合に食らいつくかのような研磨の必死さは、勝敗に興味を持たなかった彼が、このゴミ捨て場の決戦で得たものでもある。「疲れるのは嫌い」な研磨を、ここまで本気にさせるもの。それこそがきっと、翔陽というライバルの存在なのだ。

 スポーツアニメの真髄は、選手たちの心情の波やその人間性に迫ることにある。『ハイキュー!!』の魅力は、その点において他のスポーツアニメと比較しても群を抜いている。そんなことはアニメシリーズを通じて既に知っていたはずなのに、感情が揺さぶられ続けた85分だった。『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』にはやはり“『ハイキュー!!』らしさ”としかいいようのない、キャラクターのドラマが溢れんばかりに詰まっている。

 春高3回戦敗退によって、研磨の活躍がもう観られないことだけが心残りなのだが、負けた者の想いを背負ってコートに立つのも勝者の役目。研磨率いる音駒の見たかった景色を、翔陽は掴むことができるのだろうか。

■公開情報
『劇場版ハイキュー‼ ゴミ捨て場の決戦』
全国公開中
監督・脚本:満仲勧
原作:『ハイキュー‼』古舘春一(集英社ジャンプ コミックス刊)
キャスト:村瀬歩、石川界人、日野聡、入野自由、林勇、細谷佳正、岡本信彦、内山昂輝、斉藤壮馬、増田俊樹、名塚佳織、諸星すみれ、神谷浩史、江川央生、梶裕貴、中村悠一、立花慎之介、石井マークほか
製作委員会:東宝、集英社、MBS、電通、Production I.G、SME、ムービック
制作スタジオ:Production I.G
配給:東宝
©「ハイキュー‼」製作委員会 ©古舘春一/集英社
公式サイト:https://haikyu.jp/
公式X(旧Twitter):@animehaikyu_com

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