『PORTAL-X』には映像作品の醍醐味が詰まっている 現実ともリンクする社会への問題提起
YouTube番組『フェイクドキュメンタリー『Q』』や『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』(テレビ東京系)などが話題を呼び、日本でもフェイクドキュメンタリー形式の作品が最近盛り上がりを見せている。この手の作品のジャンルはほとんどがホラー作品であることが多いが、それだけに縛られる必要はなく、他のジャンルでも制作することは可能だ。今回紹介する作品『PORTAL-X ~ドアの向こうの観察記録~』(WOWOW)は、SFを中心に様々なジャンル要素を取り入れた意欲作である。
物語は、50年前に日本各地でパラレルワールドへとつながる扉が発見されたことから始まる。やがて、リポーターなどが他の世界へと立ち入りインタビューを実施。そこで起きた失敗から学び、自分たちの棲む世界をより良い方向へと導くための番組「PORTAL-X」を放送する運びとなった。そんな体裁で、各話で毎回異なる並行世界を取り上げる、ドキュメンタリー形式かつオムニバスの構成となっている。
本作を観てまず感心したのが、各世界の独特な設定と、ディティールにこだわった社会描写の数々だ。非常にユニークな世界が描かれるので、毎回出だしでワクワクする。第1回では、食糧不足を解決するために開発された植物が暴走繁殖し、それによってさらなる食糧危機に見舞われた世界を訪れる。そこでは人の手に負えなくなった人工植物によって土の栄養が奪われ、まともな植物が育たなくなっている。僅かな土地でプチトマトが栽培される。当然それは希少価値が高まり、かなりの高額で取引されている。貴重な食材を狙う強盗も多いため、栽培場の警備が超厳重に……。
このような感じで、起きた事象から連鎖し、その結果、現実世界とは大きく異なる社会が構成される。この過程が実に丁寧に描写されている。ここまで細かく作り込む作品はなかなか見られない。突飛な設定ではあるが、地に足がついている。他の話では、脳を電脳化する技術が発達して死者の意識すらも蘇らせられるようになった世界や、運を可視化させるデバイスが普及した世界などが登場し、そのエピソードごとに作品の持つ味わいが変わっていく。いずれも共通するのは細部まで作り込まれた世界観。ここが絶対にブレないからどんな話になってもするっと受け入れられる。嘘を信じ込ませるには説得力が大事。これを貫き通したことを高く評価したい。