脚本が秀逸な『ムービング』、『ザ・グローリー』が描く社会問題 2023年韓国ドラマ座談会
韓国ドラマ界を支える子役の層の厚さ
にこ:『無人島のディーバ』はもう、設定でぶっ飛びましたよね
一同:(笑)
荒井:主役がパク・ウンビンだから悪い作品にはならないとは思っていましたが、15年間無人島で漂流し、15年ぶりに社会に戻ってくるところからドラマが始まるという設定にはぶっ飛びました。
咲田:ときどき『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の雰囲気が出てしまってるところが気になりましたが(笑)、それをカバーするだけのものはあったと思います。
にこ:このドラマで、相手役のチェ・ジョンヒョプの人気が“ヒョプ様”としてだいぶ上がってきましたよね。
ーー『良くも、悪くも、だって母親』『生まれ変わってもよろしく』も根強い人気があったように思います。
にこ:『良くも、悪くも、だって母親』は、ラ・ミランさん扮するお母さんのやり方には賛否両論がありましたね。母親の気持ちが分かるという人と、「ちょっと厳しすぎるのでは?」と意見が分かれたみたいです。息子役のイ・ドヒョンさんはやっぱり良かったですよね。『もうすぐ死にます』でも、彼がすごくいいんですよ。
咲田:先ほど挙がった『生まれ変わってもよろしく』は、私もベストに入れるか悩みました。主人公ジウムを演じたシン・へソンさんがやっぱり好きです。新作だと『サムダルリへようこそ』にも出てますが、この人はすごいですね。
にこ:演技力に引き込まれていってしまう感じがありますよね。私も今年はシン・ヘソンさんの年だったかなと思ってます。あと『生まれ変わってもよろしく』だと、アン・ボヒョンの子供時代を演じたチョン・ヒョンジュン君。彼を注目俳優に入れたいです。ブームが来るだろうなと思っています。もうすぐ大きくなっちゃいそうですけどね(笑)。
荒井:子役の層が厚いですよね。『ザ・グローリー』のいじめっ子、ヨンジンの娘を演じたオ・ジユルちゃんにも注目しています。韓国の俳優陣の力強さの原点は子役たちにあるんでしょうね。
にこ:『無人島のディーバ』の子役も素晴らしいですよね。みんな芦田愛菜ちゃんって感じ(笑)。俳優を辞めないでずっと続けてくれているから嬉しいです。
Netflixだけじゃない! 豊作だった2023年の配信ドラマ
ーー今年、韓国ではディズニープラスの会員が一気に増えたそうです。
荒井:配信だと、今年はディズニープラスが一番盛り上がっていたかなと思います。
にこ:『愛していると言ってくれ』『サウンドトラック』シーズン2も配信されていますし、『最悪の悪』も良かったですよね。
荒井:ディズニープラスの配信作品のなかでは、『悪鬼』が特に良かったです。
にこ:良かったですよね! 脚本を手がけたキム・ウニさんは前作が不評だったんですが、本作で再び称賛されて、ファンとしても嬉しかったです。
荒井:ドラマに登場するオカルト描写やモチーフは、相当丁寧に調べて取り入れたものだそうです。キム・テリさんの怪演も素晴らしくて、オカルトファンにはたまらない作品でした。
咲田:私はむしろオカルトものがちょっと苦手で、観ていないんです……。
にこ:『悪鬼』はイントロが一番怖いんですよ(笑)。
咲田:そうなんですね! じゃあイントロは飛ばしてちょっと観てみますね(笑)。主演のキム・テリさんは大好きなんです。『二十五、二十一』とは雰囲気が全然違うので、やっぱりすごい俳優さんなんだなと思ってはいました。
にこ:韓国の民俗学をモチーフに描いていますよね。若干違いはありますが、日本人における怪談のような要素を描いているところが、ほかの国の視聴者から観ても面白いポイントだと思います。
荒井:私が韓国ドラマで興味深いと思うのは、例えば何か体調不良が続いたりしたとき、選択肢として①病院に行く、②占い師やムーダン(巫女のような存在)に見てもらいに行くという二択になることです。「あなたの家には先祖代々こういう霊が憑いているから、今具合が悪いんですよ」という話になるのが本当に面白いなと思っています。巫俗信仰が実際に根付いているんですよね。
咲田:ちょうど今観ている『サムダルリへようこそ』でもそういう描写がありますね。主人公の女の子の妹が若くして未亡人になってしまうんですが、それはムーダンや占い師の助言に耳を貸さなかったから旦那さんが早く亡くなっちゃったんだ、というようなセリフがありました。
にこ:『ヒップタッチの女王』にもムーダンのおじさんが出てきましたね。
荒井:そうなんです! 「またムーダンだ!」っていう(笑)。
咲田:でも、あのおじさんは胡散臭い感じじゃなかったですか?(笑)
一同:(笑)
咲田:Netflix以外からも選んでみたいんですが、U-NEXTの『ワンダフルデイズ』も面白かったです。それからこれもU-NEXTで、私が大ファンのキム・ドンウクさんが出演している『豚の王』ですね。男性版『ザ・グローリー』という感じでもあり、それでいてちょっと違うところもあるんですが……本当につらい描写があるので、そこは2倍速ぐらいで観ていただいて(笑)。
にこ:Prime Videoの『誘拐の日』も、面白いとだいぶ話題になってますよね。
荒井:Prime Videoの韓国ドラマは、Netflixほど注目されるわけではないんですが、2022年の『アンナ』のように力強い作品が揃っていて、見逃せないです。
咲田:Prime Videoだと、私もにこさんが挙げていた『ボラ!デボラ』は、もう少し話題になっても良かったかなと思うくらい面白かったです。
ベテラン勢の活躍が相次いだ2023年の韓国ドラマ
にこ:荒井さんが挙げてくださった『離婚弁護士シン・ソンハン』もそうですが、今年は主人公の年齢が高いドラマが続きましたよね。『医師チャ・ジョンスク』も専業主婦が一念発起してやり直すストーリーですし、人生百年時代の応援歌なのかなと思いました。
咲田:それで言うと『クイーンメーカー』も入れたいです! ストーリーとしてはもうあと一押しほしかったなと感じたんですけど、キム・ヒエさんとムン・ソリさんというここまでベテランの俳優を主演にするというのは、日本ではあまり考えられないですよね。やっぱり韓国ドラマってすごくいいなと思いました。
荒井:ベテラン勢の活躍ということなら、『イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜』も推したいです!
にこ:だいぶ盛り上がりましたもんね!
咲田:『離婚弁護士シン・ソンハン』、私も良かったと思います。シン・ソンハン役のチョ・スンウさんが大好きなので、毎回何かしら歌ってくれるのが嬉しかったです。ミュージカル俳優の本領発揮でした!
にこ:チョ・スンウさんと、友人役を演じたキム・ソンギュンさん、チョン・ムンソンさんが3人でキャンプするシーンがよかったですね。
荒井:俳優陣とともに、脚本もまた良かったと思っています。依頼人とのエピソードがどれも印象深いんですが、一番記憶に残ったのは第1話から登場するラジオDJソジンのエピソード。彼女のように離婚や不倫をした女性タレント、女性俳優に対する一般社会の反応って、犯した過ち以上に過剰なものだったり、差別的だったりすると思うんです。そういう問題をきちんと描いていることや、深い痛みから回復していくソジンを陰ながら支えるシン・ソンハンの姿も良かったです。あと2人が特に恋愛関係にならない展開も、安心して観ていられました(笑)。
咲田:本当にそうですね。配信当初は、なぜかあまり注目されませんでしたが、大人の魅力が詰まったいい作品だったと思います。
■配信情報
『ムービング』
ディズニープラス スターにて独占配信中
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