草彅剛×橋本愛『デフ・ヴォイス』はミステリーとしても人間ドラマとしても極上の一作に

『デフ・ヴォイス』が制作された意義

 瑠美の自供を無表情で受け止める尚人。「私たちはあなたを信じます」という最後の手話は自分を犠牲にしてまでも門奈家族に寄り添ってくれた尚人への感謝と17年前の手話のアンサーのように思えた。

 後編のタイトルは「もうひとつの家族」。瑠美にとっての家族、尚人にとっての家族と、様々な捉え方ができるが、尚人もまたコーダに生まれ、その居場所をいまだに見つけられずにいる。デイケアに通う尚人の母は、ろう者であり、認知症を患っていた。諦観した態度の尚人に兄の悟志(田代英忠)は本気で殴りかかってくる。癇癪を起こしたわけではない。そこには尚人に母のことを分かってほしいという本気の思いがある。ろう者と聴者の思いのぶつかり合い。

 演じる田代英忠は日本ろう者劇団在籍の俳優であり、だからこそ草彅剛も鬼気迫る表情で田代と手話を持って衝突していく。それをただ傍観することしかできない恋人の安斉みゆき(松本若菜)。それぞれの思いが巡る印象的な場面だ。母が名前を呼ぶ声に振り向き、微笑みながら駆け寄っていく尚人を捉えたラストも、それはまるで雲間から差す一筋の光のように希望の見えるエンディングも素晴らしかった。ラストシーンを経て、改めて『デフ・ヴォイス』というタイトルの意味を考えると、その解釈はまた変化していることに気付かされる。

 そんな自身の中の意識の変化がきっとコーダやろう者の方を理解する一歩に繋がっていくのではないかと感じている。作品名は知っていながら、恥ずかしながらそのタイトルの意味を理解していなかった映画『コーダ あいのうた』を、年末年始は観ようと考えている。

参照

※ https://www.nhk.jp/p/ts/D6P3JWP8J7/blog/bl/ppJz010N9p/bp/pY4Eq1JAE7/

■放送・配信情報
『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(前・後編)
NHKオンデマンド、NHK+にて配信中
NHK Eテレビにて、2024年2月4日(日)、2月11日(日)15:45〜放送

出演:草彅剛、橋本愛、松本若菜、遠藤憲一ほか
原作:丸山正樹
脚本:高橋美幸
演出:渡辺一貴
音楽:原摩利彦
手話・ろう者監修:木村晴美
手話指導:江副悟史、米内山陽子
ろう者俳優・手話通訳コーディネート:廣川麻子
制作統括:伊藤学(KADOKAWA)、坂部康二(NHKエンタープライズ)、勝田夏子(NHK)
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる