『下剋上球児』が大切にした“ドラマ”としてのリアル 新井順子P×脚本・奥寺佐渡子に聞く

『下剋上球児』新井P×奥寺佐渡子が語る

 「日本一の下剋上まであと◯日」。放送回を重ねるごとに◯の中の数字が減っていき、ついに残り「1日」となったTBS日曜劇場『下剋上球児』。残念のザン高と言われていた越山高校野球部、そして南雲監督(鈴木亮平)は、少しずつ成長しながら、ついに甲子園まであと一歩のところまでたどり着いた。そんな彼らの姿に、実際の高校野球を観るように、多くの視聴者が夢中になっている。本作の脚本を手がけたのは、新井順子プロデューサー、塚原あゆ子監督と『最愛』『Nのために』などTBSのヒットドラマでタッグを組んでいる奥寺佐渡子だ。最終回を前に、新井プロデューサーと奥寺に本作をいかにして構築していったのか、その制作過程を聞いた。(編集部)

野球シーンは“気持ち”で観られるように

――たくさんの反響が届いていると思いますが、特に印象的だったものを教えてください。

新井順子(以下、新井):元球児とはいえ、みんな引退してからかなり時間が経っているので、「球児に見える」とか、野球ファンの方から「フォームがいい」といった反響をいただけて良かったです。あとは球児たちが「1年生のときの顔と、現在の顔が全然違う」という感想もあって、実際に私もそう思います。撮影は4カ月ですが、野球練習のスタートからは丸1年が経ちました。第8話のセリフにもありましたが、「もう終わっちゃうのかな、ずっとやれたらいいな」という感覚が本人たちにもありました。昨日クランクアップしましたが、みんな「あと何日、何日」と計算しながら現場に来ていたので、そういう寂しさも相まってすごくいい表情をしていたと思います。本人たちにもたくさん反響をいただいているので、毎日「フォロワーが何人になりました~!」とか言いに来ていました(笑)。みんな少年のようですね。

奥寺佐渡子(以下、奥寺):最初は、このドラマを野球好きの人が観るのか、ドラマ好きな人が観るのかも想像がつかなかったんです。そんな中で「野球はわからないけど面白い」と言ってくださる人がいて、それはホッとしました。

――野球がわからない視聴者でも楽しめるように、どんな点を意識されましたか?

奥寺:“気持ち”で観られるように、というのはすごく意識していました。野球もドラマの一部なので、その試合の中で気持ちがどう変わるのか、というところまでちゃんと作らないと、野球がわからない人が置いてきぼりになっちゃうよね、とよく話していました。

――脚本の制作から撮影を通して、一番難しかったことを聞かせてください。

奥寺:やはり試合の内容です。野球はすごく複雑で高度なスポーツなので、1球1球、1打席1打席で勝敗の流れが変わってしまう。それをどうダイジェストしていったらいいのかと、第1話、第2話は本当に手探りでした。

――実際、試合シーンの制作はどのように進められたのでしょうか?

奥寺:毎回、実際にプレー経験のあるスタッフさんや監督たちと話し合って決めています。配球などの細かいところまでは考えられないので、それはわかっている方に聞いて、本当に全員野球で作っていますね(笑)。現場でも、またさらにいろんな要素を入れてくださっているので、どの試合もものすごい人数が関わっています。

新井:奥寺さんの「ここでこういう気持ちになる」「ここでこういうセリフを言う」「ここで試合を逆転する」とざっくり書かれた台本を見ながら、監督と野球がわかる助監督さんが集まって、6時間くらいかけて「楡(生田俊平)がこの打順で打つ」「ここでライトに打球が飛ぶ」などと考えていました。でも、なかなか思ったところに飛ばすのが難しくて。最初の方は「レフトに飛ぶ」と決めたらレフトに打てるまで10球でも20球でもやっていたんですが、だんだん「レフトじゃなくてもよくない?」という感じになっていきました(笑)。

――細かいプレーについては、現場で流動的に変わっていったわけですね。

新井:なので、実況も“打てたもの”に変えていこう、ということになりました。実は、第1話には実況がないんです。それだとピンチなのかチャンスなのか、今の状況がわかりにくかったので、第2話で奥寺さんが「ラジオを入れたい」と。そこで犬塚さん(小日向文世)たちがラジオ中継をするシーンを入れたら、実況があるのとないのとでは全然違うことに気づいて、試合には全部入れることにしました。一応たたきはありますが、アナウンサーの方には当日、現場で「見たまんまを喋ってください」とお願いしています。やっぱりプロはすごいですよね。

――第2話では、山住先生(黒木華)のセリフに『ストッパー毒島』が出てきて、SNSでも話題になりました。実際に漫画を参考にするようなこともあったのでしょうか?

奥寺:『ストッパー毒島』は、私が読んでいる数少ない野球漫画の一つなんです。『ドカベン』も読んでいましたが、『ストッパー毒島』は山住先生の年代にも合うかなと。でも、現場ではほかにもいろいろと読んでいたんですよね?

新井:そうですね。『タッチ』『MAJOR』『おおきく振りかぶって』、あとは『ROOKIES』もそうですが、どうやって試合を撮ったらいいのかと、我々だけじゃなく助監督さんもカメラマンさんも研究していたんじゃないかなと思います。

奥寺:私はむしろ「密着 野球部」みたいな動画や、監督インタビューを参考にすることが多かったですね。

新井:あとはYouTubeで「神プレー」みたいなものを観て、「これやろう!」と(笑)。

――人間ドラマの部分では、主人公・南雲(鈴木亮平)が抱える秘密が一つの軸になっています。

奥寺:南雲に限らず大人も全員マイナスからのスタートにしたかったんです。そして地域・コミュニティ全体で「行くぞ!」という構成で作りたい、というのはありました。

新井:野球ものに限らず、学園ドラマは先生に物語があまりないじゃないですか。1話ずつ今週はこの生徒の話、今週はこの生徒の話、という流れになりがちだなと。さらには『下剋上球児』の主人公は先生なので、先生も下剋上しないといけないのかな、という思いもあって。原案には先生に「教員免許がない」という設定はありませんでしたが、“たとえ1回失敗しても、いくらでも可能性はあるんだ”というところに持って行くためには、何かしら物語が必要でした。最終回では、「人生いくらでも下剋上できるぞ」という思いを感じてもらえるのではないでしょうか。

下剋上球児

――日沖誠(菅生新樹)をはじめ、球児たちの卒業後の進路は奥寺さんのインスピレーションで決まったと伺いました。

奥寺:実は球児たちとはそんなに会話できる時間がなかったんです。なので、現場にいるスタッフから「この役者さんは、こんなお芝居が素敵だよ」というイメージを聞いて、それを反映していくことが多かったと思います。

新井:衣装合わせの日に、1人5分ずつくらい喋りましたよね?

奥寺:そうですね。すでに第3話あたりを書いていたんですが、イメージにあまりにもぴったりな人たちが来て驚きました。役者さんをオーディションで選ぶってこういうことなんだなと思いましたね。翔くん(中沢元紀)もそうですし、楡も「よく楡がいたな!」と(笑)。

――映像をご覧になって、台本作成時の想像を超えたと感じるキャラクターはいますか?

奥寺:もうそれは全員です。でも、やっぱり鈴木亮平さんは素晴らしかったですね。矛盾もあって、いろんな要素を抱えた人物なんですが、先生をやっているときも、無職をやっているときも、監督をやっているときも、ちゃんと一つの人間の中にその要素が入っている。それを表現するのは、すごく難しいことだと思います。

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