“殺人鬼大暴れ”を期待すると物足りない!? リアルを手に入れてほしかった『怪物の木こり』
野望のためなら躊躇なく殺人を行うサイコパス弁護士の二宮彰(亀梨和也)。今日も殺人を行ったり行わなかったりして平和に暮らしていたが、突如として斧を握った怪物マスクの殺人鬼に襲われる。この怪物マスクの男こそ、頭を斧で叩き崩して脳ミソを奪うという極悪非道な手口で巷を騒がせている猟奇殺人犯“脳泥棒”だった。辛くも脳泥棒の襲撃から逃れた二宮であったが、知り合いのサイコパス医者に治療してもらううちに、自分の脳みそに謎の細工が施されていることを知る。そして脳泥棒は自分がこれまで犯してきた数々の殺人についても把握しているようだ。「脳泥棒を生かしておくわけにはいかない」と結論付けた二宮は、警察より早く脳泥棒を殺すために動き出す。しかし、その一方で、彼の脳みそに異変が起き始めて……。
日本を代表する職人監督となった三池崇史の最新作は、殺人鬼vs殺人鬼の攻防を描いたサスペンス映画だ。三池監督といえば、『クローズZERO』(2007年)に代表される不良/ヤンキーものが有名だが、一方で『オーディション』(2000年)や『殺し屋1』(2001年)などの異常者大暴れ映画を撮ってきた人物でもある。いわば本作は三池監督お得意のジャンルだ。実際、ファミレス的な堅実さを発揮している。少々「?」な箇所もテンポの良さで乗り切り、最後までサクサク進む。
一方で、シリアスにするかポップにするか、という2点で、どっちつかずになっている印象は否めない。レイティングの関係か、ショックシーンの見せ方が甘くなっているのはこのジャンルの映画としては大きな痛手だ(もちろんゴアを見せればイイというものでもないが)。亀梨和也に殺された人間が5~10リットルくらい出血するシーンには三池監督の意地を感じたが、「サイコパス・猟奇殺人鬼の大暴れ」を期待して観に行くと肩透かしを食らうことになるだろう。また肝心の殺人鬼の怪物コスチュームが安っぽいのも厳しさを感じる。町中で全身コスチュームの斧を持った殺人鬼が暴れる映画なのにハッタリが足りないのだ。
そしてハッタリの代わりを務めるのが、サイコパスの人々によるウェットなドラマだ。三池監督の映画には、社会のどこにも居場所を持てなかった人間への優しい視点と現実の厳しさがある。今回もそういった三池監督の優しさと厳しさは健在だ。人をバンバカ殺している殺人鬼に寄り添っている。この点は三池監督の独特の優しさが好きな人にはグッとくるものがあるだろう。