『無人島のディーバ』誰かを愛した記憶が救いになる アラサーで社会復帰した女性の成長譚

『無人島のディーバ』が胸を打つ理由

 さらに本作の視点が新鮮なのは、男性が女性の夢を応援する展開であるところだ。父の暴力に耐えかねたモクハは、ある日ついに警察へ通報する。しかし、駆け付けた警官でギホの父ボンワン(イ・スンジュン)ら保守的な大人たちから「親を警察へ突き出すとは不孝者」と一蹴されてしまう。実はギホもまた、ボンワンから凄まじい虐待を受け、ひそかに島を脱出しようと計画していたのだった。ギホはそれをモクハに打ち明けず、自分自身が犠牲になりながらもモクハだけを絶望から逃がそうとする。これまで多くのフィクションでは、男性の夢を応援し、ひたむきに待つ女性の姿が描かれてきた。『無人島のディーバ』が多くのサバイバルドラマのみならず、既存の成長物語とも一線を画すのはこの点だ。

 さらに本作は、“記憶”をめぐる物語でもある。15年間無人島で暮らしていたモクハは、世の中から忘れられ、死んだと思われていた。全盛期をとうに通り過ぎたランジュもまた、忘れられて“死んだ”アーティストだった。それでもランジュのことはモクハが、そしてモクハのことはギホだけがずっと記憶していたのだ。人は忘れられたときこそが死ぬときだとはよく言ったものだ。

 ランジュがモクハという熱烈ファンにチアアップされた喜びは明らかだが、「無人島で寂しさを感じるたびに、大好きなランジュ姉さんの歌を歌って耐えた」と明かすモクハもまた、ランジュを記憶し続けることで生き延びたのではないか。

 愛された記憶以上に、誰かを愛した記憶がよりその人を困難から救うことがある。俳優やアイドル、アニメの登場人物など自分とは別世界に生きる存在を無心に応援する行為は、“オタ活”“推し活”とカジュアルに言われ、今では社会現象のようになった。それは時に一過性の感情ではなく、ある人にとってはとても切実な営みでもあるのではないだろうか。BTSのSUGAは、ゲストを招き音楽や人生について深く語らう自身のコンテンツ「シュチタ」(※2)の第1回目で、グループのリーダーのRMとともに大変印象深い言葉を残している。

「ものすごく大事です、オタク活動は! 何かのファン、何かのマニアになるということは、人生においてかなり……何かを愛しながら生きていくっていうふうに僕は表現しているんですよ。ある人とない人では、人生の質が違います」

 チュンサム島からモクハを送り出したギホにとっても、地獄のような家庭内暴力の中で、彼女の夢を応援した日々が拠り所であったのではないか。モクハという女性の成長物語を支えるように、誰かを愛した記憶のストーリーが紡がれているのだ。

参照

※1. https://tvn.cjenm.com/ko/castawaydiva/about/
※2. https://youtu.be/KN9gQBb4up0?si=Op-j0-T6O6IAsd6q

■配信情報
『無人島のディーバ』
Netflixにて配信中
出演:パク・ウンビン、キム・ヒョジン、チェ・ジョンヒョプ
原作・制作:オ・チュンファン、パク・ヘリョン、ウンヨル
(写真はtvN公式サイトより)

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