草彅剛、新納慎也、菊地凛子 『ブギウギ』東京編を盛り上げた3人の“演技超人”

 NHK連続テレビ小説『ブギウギ』における東京・梅丸楽劇団編があまりに面白く、このままずっとバドジズデジドダしててほしかったのだが、ドラマの作劇上、そうもいかないようだ。

 ピュアでかわいい福来スズ子(趣里)の弟・六郎(黒崎煌代)は徴兵され、最愛のお母ちゃん・ツヤ(水川あさみ)は天に召されてしまった。一変、物語はシビアな方向に向かい始めたが、いま少しの猶予が欲しい。いま思えば夢のようだった、梅丸楽劇団草創期を振り返りたい。

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 東京編が、なぜこんなにもズキズキワクワクしていたのか。それは、草彅剛、新納慎也、菊地凛子、この3人の演技巧者、いや、“演技超人”がいたからだ。なぜこの3人が“超人”なのか。それは、彼ら彼女らが演じた役柄を見ればわかる。

 空気の読めない天才作曲家。キザで二枚目の演出家。主人公の嫌味なライバル。

 ものすごくわかりやすいマンガチックなキャラたちである。昔の少女マンガに出てきそうだ。このようにカリカチュアライズされたキャラを、あまり達者でない方が演じるとどうなるか。大抵、事故が起こる。その役柄の属性を単なる“記号”として過度にやり過ぎてしまい、視聴者からするとどうにも居心地の悪い、陳腐で観てて恥ずかしい有様となる。

 一方、超人3人はどうか。マンガチックなキャラをしっかりマンガチックに演じながらも、一切恥ずかしさはなく、大変魅力的だ。やりすぎにならないギリギリで抑えるその絶妙なバランス感覚が、超人の超人たる所以である。

 まず、草彅剛演じる羽鳥善一。モデルと思われるのは、戦中戦後の大作曲家である服部良一だ。この羽鳥は、汽車の中だろうが、食事中だろうが、はたまた真面目な会議中だろうが、常にジャズのリズムを取り続ける愛すべき音楽バカである。常に頭の中には音楽のことしかない。音楽のことしか考えられないので、基本的に人の心がわからない。だから、会ったばかりのスズ子に「今から稽古しようか!」と持ち掛けるし、作詞作曲した「ラッパと娘」の出だしだけを500回歌わせたりするのだ。

 そしてこれらの行動は、スズ子をあえて厳しく鍛えているわけでもなんでもない。“人の心がわからない天才”にありがちなのだが、相手も“それを望んでいる”と思っている。自分自身が一日中音楽することを最上の喜びと感じているため、当然相手もそうだと思っている。あの貼り付いたような笑顔には、「幸せだなぁ、一日中音楽が出来て。君もそうだろ!?」という気持ちが溢れている。怖い顔で怒鳴られながら稽古した方がマシかもしれない。

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 そして、新納慎也演じる松永大星。モデルと思われるのは、演出家の益田貞信。財閥の御曹司で海外留学経験があり、言葉の端々に英語が混ざるキザな人物である。本来なら大変鼻につくキャラだ。これが男前でなかったら、ほぼ『おそ松くん』のイヤミである。これだけアクの強いキャラを嫌味にならずに魅力的に演じることが出来る俳優は、今なら新納慎也しかいないだろう。ただでさえ派手でリアクションの大きなこのキャラを、ちょうどいい塩梅で演じることが出来たのは、彼が元々舞台出身であることが大きい。まずは舞台で演じるようなオーバーアクトで人物を作った上で、映像用に削っていったのではないか(舞台用演技のまま映像で演じてしまうのが、達者でない人)。

 また、画面から半分見切れているような自分にはピントが合っていない時であっても、彼は常にいい表情、いいリアクションをしている。この点もやはり、常に全身を観客にさらけ出している舞台俳優のサガだ。

 この松永は、スズ子の初恋の人でもある。主人公の想い人がキザな二枚目であるという設定は、一歩間違えるととてつもなく陳腐な事態となってしまう。それを淡い初恋と失恋のエピソードに昇華できたのは、演者の新納慎也自身の魅力によるものだ。彼がNHK公式ドラマガイド本で、この役柄について語っている。「彼の言動は、場を和ませるための一種のパフォーマンスで、本当はとても真面目な人」と。ただの軽薄な人物ではなく、本当は真摯にエンターテインメントを愛する人物だからこそ、スズ子も心惹かれたのだろう。

 最後に、菊地凛子演じる茨田りつ子。モデルは、言わずと知れた淡谷のり子先生である。スズ子の歌を「下品」とこき下ろし、常に厳しい言葉を投げかけるが、それは高いプロ意識ゆえであり、スズ子を認めているからでもある。現時点ではりつ子が格上として描かれているが、第1話冒頭を思い出してほしい。そこで描かれていたのは「東京ブギウギ」ヒット後の未来の姿。そこでのりつ子とスズ子のやり取り。「あなたの下品な歌をお客さんが待ってるわよ」「相変わらず口の悪いおばはんやで」同格として憎まれ口を叩き合いながらも、信頼と友情が感じられるシーンだ。この関係性に至るまでの展開が、今から楽しみである。

 淡谷のり子先生と言えば、『ものまね王座決定戦』(フジテレビ系)の審査委員長をしていたような、晩年の姿しか知らない層がほとんどだと思われる。だが彼女が演じる茨田りつ子を見ていると、「きっとお若い頃の淡谷先生は、こんな感じだったんだろうな」という想像をかき立てられる。「喉を守るために」常にウィスパーボイスで話すさまは、本当に若き日の淡谷のり子が生き返ったようだ。

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