新作『ヴォルーズ』ではアクションコメディに挑戦 “俳優監督”メラニー・ロランの歩み

 近年、目を引く俳優たちによる監督業進出。キャリアにおいて出演と監督を兼ねる“俳優監督”は昔から一定数いたが、質・量ともに充実した昨今の長編監督デビューラッシュには目を見張るものがある。マギー・ギレンホール(『ロスト・ドーター』)、レジーナ・キング(『あの夜、マイアミで』)、ジョナ・ヒル(『mid90s ミッドナインティーズ』)、オリヴィア・ワイルド(『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』)、ポール・ダノ(『ワイルドライフ』)、ジョン・クラシンスキー(『クワイエット・プレイス』シリーズ)、レベッカ・ホール(『PASSING -白い黒人-』)、ジェシー・アイゼンバーグ(『僕らの世界が交わるまで』)と枚挙にいとまがなく、いずれも初監督作とは思えない完成度だ。

 また2023年を振り返ってみても、今年を代表する重要なプレーヤーは皆、俳優監督だ。上半期はベン・アフレックが『AIR/エア』を発表。傑作に仕上がっていたのはもちろんのこと、Amazon製作ながら配信に先駆けての劇場拡大公開は、後にAppleTV+が『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』『ナポレオン』で追随。ハリウッドにとって喫緊の懸案である、配信プラットフォーム製作映画の劇場公開に1つの方向性を示した。続いてサマーシーズンには『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグ監督作『バービー』が公開。配給ワーナー・ブラザースの歴代興行収入記録を塗り替えるばかりか、今年最大のヒット作に。そして12月にはブラッドリー・クーパーが『アリー/ スター誕生』に続いて再びメガホンを取る監督第2作『マエストロ:その音楽と愛と』が待機。賞レースを大いに盛り上げるのは間違いない。

『6アンダーグラウンド』Netflixにて独占配信中

 そんな百花繚乱の俳優監督時代に母国フランスとハリウッドを軽やかに往復し、コンスタントに監督作を撮り続けているのがメラニー・ロランだ。2000年代前半、気鋭の若手俳優として注目を集めた彼女は、2008年にクエンティン・タランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』のメインキャストに抜擢。マリオン・コティヤール、エヴァ・グリーンらに続く、国際派フランス俳優の仲間入りをする。マイケル・ベイの『6アンダーグラウンド』などハリウッド大作にも積極的に出演する一方、マイク・ミルズ(『人生はビギナーズ』)、ドゥニ・ヴィルヌーヴ(『複製された男』)ら重要作家の作品や、地元フランスに戻れば『オーケストラ!』『英雄は嘘がお好き』といった大衆娯楽映画に出演するなど、幅広いフィルモグラフィを築き上げてきた。

 ロラン自身はキャリアの早い段階から監督を志望しており、2011年に『Les adoptés(原題)』で長編映画監督デビューを果たす。続く2014年の第2作『呼吸―友情と破壊』は、2人の女子高生の友情が次第に壊れていくさまを描いた心理スリラーで、ロランは卓越したサスペンスの才能を発揮。日本では長らく特集上映などでしか観ることのできなかった逸品だが、2023年12月にスターチャンネルで初放送される。万難排してぜひともこの機会に御覧いただきたい。

 私生活で出産を経たロランは子供の将来に不安を感じ、自然、経済、政治、教育などの角度から地球環境の持続可能性について探求するドキュメンタリー『TOMORROW パーマネントライフを探して』を発表する。子供との関係性は監督第4作『欲望に溺れて』にも顕著で、出産によってアーティストとしての可能性が閉ざされる不安を抱いたヒロインを、男性主人公の目線から描いた。母性の在処というテーマ選びといい、パーソナルでありながら彼女の明晰さがうかがえる2本だ。

『ガルヴェストン』©︎2018 EMERALD SHORES LLC - ALL RIGHTS RESERVED

 転機となったのは、アメリカに招かれて撮影した第5作『ガルヴェストン』。HBOのテレビシリーズ『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』のショーランナー、ニック・ピゾラットの小説『逃亡のガルヴェストン』が原作。主演はベン・フォスターとエル・ファニング。ヤクザ者の男と少女娼婦の逃避行を描いた定番ハードボイルドを、ロランはロマンチシズムに陥りがちなピゾラットよりもずっとドライで端正な作品へと語り直し、職人監督の技量を見せた。

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