『いちばんすきな花』物語を動かす“間違い探しと答え合わせ” 美鳥登場で先の読めない展開に

 しかし、4人は当事者だから困惑していたが、客観的に聞けばあり得ることばかりだ。夜々が言うように、親との折り合いが良くなかった時期があったことを考えると、多感な中学生のころに不安定な時期を過ごしていたとしても不思議ではない。そんな時期でも、全員を拒絶していたわけではなく、椿のようにそっと心を通わせることができる友人がいたというのも頷ける。そして、子どものころから慕ってくれる夜々に対しては、一時的に居候させる面倒見の良さもあるのも、親の介護のために北海道へと向かった美鳥の性格と一貫している。

 そして中学校生活に馴染めなかった経験があるからこそ、ゆくえの理解者にもなれたし、赤田との男女の友情についても純粋に応援する立場でいてくれた。一方で、1人でいる人を見つけては声を掛けて安心しているような紅葉の不器用な性格を、どうにもしてあげることができない自分にイライラしていたのもわからなくもない。

 そんな美鳥の印象に違いがあっても同一人物であると納得できる下地が、紅葉のバイト先の同僚がこぼした「2カ月前に別れた元々カノ」の話で繋がってくるのも、またニクい流れだ。付き合う人によって「インドアな性格がアウトドアに変わった」という愚痴が、何気ない会話に見えて、たとえ短期間であっても状況によって人が真逆の性格のように変わってしまう可能性もあるし、その意外な一面を自分だけが見えていなかった可能性もあるということに、さりげなく気づかせてくれるのがゾクゾクした。

 4人がそれぞれ持つ美鳥の印象はどれも間違っていない。そこにあるのは、美鳥は別の形で4人の心を支えてきたという「答え」。夜々には女の子が将棋が好きでもいいのだということを教え、親との関係性が悪くなったときに頼れる身内になってくれた。そして「個性を抑えつけていた椿にとっては、自我を貫く美鳥の存在そのものが心強く思えたのではないかと想像する。また、学校では上手くいかなかったゆくえに塾という居場所を作り、数学を愛する楽しみを授け、紅葉には素顔をさらけ出せる時間を一緒に過ごした。

 だから、美鳥の面影を求める4人が、この家を特別な場所だと感じることはもはや必然だったのだろう。しかし、この家に美鳥が帰ってくるということが、4人で集う“部室“の喪失と表裏一体になっていることが、とても複雑だ。椿の家の買い手が、共通の知人である美鳥ならば、これからもこの家で集まることは可能になる。でも、4人でこの家に集まる喜びと、4人が会いたかった美鳥が戻ってくる喜びは、また別のこと。

 それは、夜々が意を決して椿に告白したものの、「3人と同じくらい好き」と言われてしまったのと同じように。夜々も椿のことは「3人と同じくらい好き」なのは間違いではないけれど、2人でいる特別な好きもそこにはある。それこそ、それぞれの関係性でしか得られない栄養が人にはある。恋愛感情をも乗り越えて、大切にしてきた男女4人の友情。そこでめでたしめでたしとならずに、美鳥という新たな要素をぶつけてきたストーリー展開に、ますます先が読めない。果たして、この再会がどんなクライマックスへと繋がっていくのだろうか。楽しみなような、少し怖いような気持ちなので、とりあえず精神安定パンを食べて次回を待ちたい。

■放送情報
木曜劇場『いちばんすきな花』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:多部未華子、松下洸平、神尾楓珠、今田美桜、齋藤飛鳥、白鳥玉季、黒川想矢、田辺桃子、泉澤祐希、臼田あさ美、仲野太賀ほか
脚本:生方美久
プロデュース:村瀬健
演出:髙野舞
音楽:得田真裕
主題歌:藤井風「花」(HEHN RECORDS / UNIVERSAL SIGMA)
制作・著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/ichibansukina_hana/
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公式Instagram:@sukihana_fujitv

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