悠木碧の圧倒的演技力を堪能 『薬屋のひとりごと』『アンデラ』での振り幅の凄さ
今期放送中のTVアニメ『薬屋のひとりごと』で猫猫役を、『アンデッドアンラック』ではジーナ役を演じている声優・悠木碧。『僕のヒーローアカデミア』の蛙吹梅雨や『魔法少女まどか☆マギカ』の鹿目まどかなど、これまでにも数多くのキャラクターにその声で生命を吹き込んできた実力派声優だ。
悠木の実力は重々知っていたつもりだった。弱々しく泣くシーンの多い鹿目まどかの演技からは過酷な魔法少女の運命が痛いほど伝わってきてつらくなった一方、蛙吹梅雨は同じ悠木が演じているとは思いつかないほどザラッとした独特な声質で違う人物に感じた。
だが、改めて衝撃を受けたのが『薬屋のひとりごと』だ。『薬屋のひとりごと』は日向夏による小説をアニメ化した作品。後宮を舞台に主人公・猫猫が難事件を解決していく。小学館とスクエア・エニックスから2種類のコミカライズ版が出版されているという少し変わった特徴がある。
そんな『薬屋のひとりごと』で悠木の圧倒的な演技力を見せつけられたのが、第4話の「恫喝」だ。毒であるおしろいを梨花妃に塗り続けていた侍女の顔を思いきり平手打ちした猫猫は、侍女の髪を鷲づかみにして引きずる。さらに猫猫は暗く鋭い眼光で恫喝し、侍女の顔におしろいを押しつけた。
このシーンには、ビビッと鳥肌が立った。猫猫の過激な行動だけではない。悠木の冷たくドスのきいた怒りの演技が、思わず身震いしてしまうほど迫力があったのだ。梨花妃におしろいを塗った侍女に対する煮えたぎるような怒りと腹立たしさが、このシーンの悠木の演技には込められていた。
それまで猫猫は比較的淡々としたキャラクターだった。冷静に壬氏や侍女を観察し、具合の悪い梨花妃の食事も薬の知識を活かして的確に指示する。喜怒哀楽がないというわけではないが、賢く世渡り上手な性格のため大っぴらに怒りをあらわにすることはなかった。ゆえに第4話での真に迫ったキレっぷりがきいてくる。
加えて『薬屋のひとりごと』はときどきキャラクターがデフォルメされて描かれる。猫猫がやぶ医者にお茶菓子を出されて喜んだり、壬氏がやってきて食べられなくなった途端しくしくと悲しんだり……。コミカルにデフォルメされた猫猫が悠木のコロコロと軽快な演技と合っている。悠木は怒り以外のお芝居も魅力的だ。
面白いほど移り変わる感情の演技は『アンデッドアンラック』のジーナでも見られる。『アンデッドアンラック』は『週刊少年ジャンプ』にて連載中の戸塚慶文による同名コミックをアニメ化した異能バトルファンタジー作。同じクールで主要キャラクターを2作品も担当しているのは、悠木が第一線で活躍している声優であるなによりの証拠だろう。
『アンデッドアンラック』の第4話で、アンディとジーナが激しいバトルを繰り広げる。そこで悠木が見せる抑えぎみの静かな怒りから爆発したような怒り。怒りのグラデーションがとても鮮やかで、ギャグっぽいシーンから急激に怒りを沸騰させる切り替えも流れるように自然だ。
『薬屋のひとりごと』と『アンデッドアンラック』では悠木の迫真の演技がたっぷり味わえる。特に悠木の表現力が本領を発揮する怒りのシーンが素晴らしい。今期アニメはファンが改めて悠木の実力を再認識しただけでなく、新たなファンの獲得にも繋がったに違いない。