『あな忘』2人の女性を介して複雑に交わり合う空の過去と現在 ラスト10分は怒涛の展開に

 時間というものは時に残酷だ。どんなに今を精一杯生きていたとしても、愛する人の過去を共有することはできない。「自分が先にあの人と出会っていれば」と思ったことのある、全ての人の想いを重ね合わせた『たとえあなたを忘れても』(ABCテレビ・テレビ朝日系)第3話。空の過去と現在が、2人の女性を介して複雑に交わり合う。

 前回の放送で空(萩原利久)が記憶障害を抱えており、今までに4回記憶を失っていることを沙菜(岡田結実)から伝えられた美璃(堀田真由)。過去のやりとりを再びなぞらえていくような美璃と空の会話に切なさを感じながらも、2人がもう一度“友達”として、距離を縮めていく姿は胸に込み上げてくるものがある。

 再び空のキッチンカーに通うようになった美璃は、とある常連客の女性(檀れい)と出会う。コーヒーをしみじみ味わいながら、遠くのキッチンカーで働く空に、温かな眼差しを向けていたその女性は、空の母だった。記憶がない空が「いつもありがとうございます」とカップに描いたメッセージは、彼にとっては常連客への優しさでありながらも、実の母の視点から見れば残酷さすら感じさせる。

 これまでは美璃を中心に彼女を取り巻く人々を取り上げてきた本作だが、今回は空と母、美璃とその母の関係性といった“親子関係”も一つのテーマになっていたのではないだろうか。

 記憶を失った空とその母である理佐子の切ない関係性はもちろんのこと、美璃と彼女の母であるゆかり(加藤貴子)の関係性もなかなかに複雑である。保を介して、一つの“家族”としてのコミュニケーションが成り立っている様子を感じさせるシーンもあり、この絶妙な親子のすれ違いの描き方も上手い。確執があるわけでもなく、家族として機能しなくなるほどに大きな問題が起こっているわけでもない。ただ、“身内”という言葉を使うには、あまりにも心の距離の遠さを感じる関係。それは記憶障害という壁を前にした空の母が、「沙菜ちゃんやあなたのような人が一緒にいてくれたらもう……」と少しの諦めとともに息子に向ける寂しげな視線に込められた思いでもある。

一方、空に友達ができたことを「空、友達ができたん?」と素直に喜ぶ沙菜は、その“友達”が美璃であることに気づき、複雑な想いに駆られていた。空が記憶を失うたびに、そっと空をサポートし、彼女の言葉で言うところの“羅針盤”としての役割を果たしてきた沙菜。そんな沙菜から見れば、数カ月前から空に思いを寄せ始めた美璃は、覚悟が違うのかもしれない。それでも、空に会えることを楽しみに日々キッチンカーへ足を運ぶ美璃。

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