『ブギウギ』スズ子はなぜ東京行きを決断したのか “3人の母”から受け取った家族のあり方

 ツヤは、年に一回香川に、キヌとスズ子を会わせに帰ると約束しながら、いつしか足が遠のいていた。いつの間にか、スズ子を自分のものにしたくなったから。同じときに生まれた息子が幼くして死んでしまったこともあったのかなと思うが、その後、また息子・六郎(黒崎煌代)が生まれたにもかかわらず、そちらに愛情を偏らせず、スズ子を大事にしていたところからも、よほどスズ子に愛情を感じていたのであろう。第25話で、「身勝手でずるい」と自虐していたが、子供がかわいく思えて誘拐してしまうことと近い感覚であり、キヌが「返して!」と責めてきたら、泥沼になったことだろう。明るくからっとたくましい人物と思いきや、心のなかで情念が沸々とたぎっていたのかと思うと、ツヤのドラマだけで一本映画ができそうだ。

 そして、礼子。劇団の押しも押されもしないトップスターだったが、突然の解雇で運命が変わった。「やめたくないなあ」と本音を漏らしていたこともあり、悔いがないといったら嘘だったろう。ただ、そこでへこたれることはなく、股野(森永悠希)と結婚することで見たことのない世界を獲得しようと前向きになったことが彼女の強さだ。そして、子供を作ることで表現者としてさらなる可能性を開こうとした。礼子は、表現者である自分が第一だったかもしれない。その結果、自身の命は落とすが、「歌も踊りも天才的」になりそうだという期待のかかった子供を残す。生まれたばかりで未来を規定されても困る気もするがそれはさておく。

 「うちアホやから」とたぶん、教育を十分に受けられず、農家の妻として粛々と生活していくキヌなりの幸福。どんなことがあっても夫も子供も手放せないツヤの、強烈な愛情。結婚も出産も表現との関わりで考える(そう考えるしかなかったのかもしれない)礼子の前向きさ。三者三様の生き方を目の当たりにして、スズ子は家族の形はひとつではないことを知ったのではないだろうか。だからこそ、ツヤと自身の母娘の形を受け止めたうえで、東京に行く決意をする。それには、礼子のお別れの会に、縁を切っていた両親が来て嘆き悲しんでいた姿を見て、別れても家族という形を腹に落としたのだろう。

 ツヤもまた、ほんとうの子でないスズ子がそれを知ったのではないかという罪悪感と、ほんとうの子でないから離れたら心まで離れてしまうのではないかという不安などから解き放たれ、スズ子を送り出す決意をする。家族との絶対的な信頼感を支えに、スズ子は東京に挑むのだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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