『シャングリラ・フロンティア』はゲーマーじゃなくても楽しめる! “親切設計”の演出の妙

 今期どのアニメを観ようかまだ迷っている人は『シャングリラ・フロンティア』を観てほしい。知らず知らずのうちに夢と希望を与えてくれる一作になっているからだ。本作は「ゲーム」を題材とした作品だが、ゲームに詳しくなくても楽しめる、懐の広い「ゲーム体験型アニメ」となっている。

TVアニメ『シャングリラ・フロンティア』第3弾PV|10月1日から「日5枠」にて放送開始!

 TVアニメ『シャングリラ・フロンティア』(以下、『シャンフロ』)は、『週刊少年マガジン』で連載中の硬梨菜・不二涼介による同名コミックをアニメ化したファンタジーアクション。フルダイブ型ゲームが主流となった近未来に、“クソゲー”をなにより愛する主人公・陽務楽郎(以下、サンラク)が神ゲー「シャングリラ・フロンティア」の世界に飛び込むところから物語は始まる。

 物語の舞台は、現在使われているようなディスプレイのゲームがレトロと呼ばれる近未来。本作の特徴のひとつに、サンラクがプレイする「シャンフロ」がフルダイブ型VRゲームという点がある。フルダイブ型VRゲームとは、意識全体を仮想空間に入り込ませるゲームのことをいう。仮想空間に没入できるまったく未知の感覚を、一度は体験してみたいと思ったことがある人も少なくないのではないだろうか。2018年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督作『レディ・プレイヤー1』なども記憶に新しい。

 PS4やPS5のような家庭用ゲーム機でVRゲームもリリースされるなど、ゲームは日々進化をとげている。「シャンフロ」のようなフルダイブ型ゲームが遊べるようになるのもけっして遠い未来ではなさそうだ。「わたしも同じ体験ができるかも」という希望をむくむくと想像させてくれる夢のある作品だといえる。

 まさに王道RPGの世界を楽しめる神ゲー「シャンフロ」。敵をたおしてレベルを上げつつ、広大なマップを冒険する。ユニークモンスターやユニークシナリオといった特殊な敵やシナリオがあり、一筋縄ではいかないところにやりごたえを感じるプレイヤーも多そうだ。敵が落とす確率の低いアイテムやステータスポイント振りなど、RPGをプレイしたことのある人なら思わずにやりとしてしまう要素もふんだんに盛り込まれている。

 ここまでだと「ゲームが好きじゃないと楽しめなさそう……」と思うかもしれない。だが、『シャンフロ』はゲーマーじゃなくても楽しめる理由が3つある。

 1つ目は、設定もりもりで魅力的な主人公のサンラクだ。サンラクはクソゲーを愛しすぎるがゆえに、クソゲーで頻発するバグに慣れてしまっている。そのためバグが発生せず通常通りプレイできる「シャンフロ」内で、驚くようなテクニックと対応のはやさを見せる。鳥頭に半裸という一見ユニークな見た目だが、じつはとても強い熟練の玄人プレイヤーなのだ。

 面白いビジュアルと戦いの中で見せるギャップが、サンラクを個性的で魅力的に見せているといってもいい。第3話で描かれたボスキャラ・夜襲のリュカオーンとの戦いでも、圧倒的に不利な状況下で戦いそのものを楽しんでいるようだった。ピンチでも楽しむことを忘れないメンタルはゲーム以外のリアルにも通ずる。サンラクのチャレンジャーな性格は見習うところが多いだろう。

TVアニメ『シャングリラ・フロンティア』ノンクレジットオープニング|FZMZ「BROKEN GAMES」

 2つ目は、ゲームの世界をいかしたアニメの仕組みにある。物語はサンラクが「シャンフロ」を紹介してもらうところから始まり、ゲームで最初に行うキャラの見た目を設定するキャラメイクまでも描写している。そこから序盤のザコ敵をたおしたり、武器を作るために鉄鉱石を掘ったり……。まるでサンラクといっしょにゲームを進めているような感覚を味わえる構成だ。ただアニメの主人公というだけでなく、自分がプレイするゲームのキャラという錯覚を起こさせる仕掛けがある。サンラクを応援したくなる理由はここにあるだろう。

 ゲームシステムをアニメの演出に上手く取り入れている点も上手い。たとえば敵やアイテムが登場するたびに、本当にゲーム画面を見ているかのように名前や効果などの説明がぴょんと表示される。ゲームに馴染みのない人に対しても丁寧な描写だ。本来ならメタ的になりかねないような解説が、ゲームの演出の一部にすることで自然に見える点もポイントだろう。

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