『進撃の巨人』アルミンこそ今の世界に必要なリーダー “憎しみの時代”を終わらすために

 『「進撃の巨人」The Final Season 完結編(前編)』が10月28日深夜に再放送される。

 本稿では放送前に、完結編を語る上で欠かせない重要人物であるアルミン・アルレルトについて振り返っていきたい。

※以下、『「進撃の巨人」The Final Season 完結編(前編)』のネタバレを含ます

 パラディ島を守るため、島外人類を全滅させることを決断したエレン。ついにエレンの地鳴らしは、人類最後の砦とも言えるスラトア要塞に逃げ込んだ人々にまで達した。そこで最後の攻撃を仕掛けようとするマーレ軍上官は、こうアナウンスする。

「皆もどうか誓って欲しい、憎しみ合う時代との決別を」
「互いを思いやる世界の幕開けを」

 この言葉を聞いたライナーの母やアニの父が、子供たちを復讐の道具にしていたことを悔いる姿を含め、非常に印象的なシーンである。 “憎しみ合う時代との決別”“互いを思いやる世界の幕開け”の精神を体現しているのが、アルミン・アルレルトというキャラクターだ。

【進撃の巨人】10年振り返り企画(アルミン・アルレルト)

 アルミンは幼少期から小柄で線が細く、肉体的な力は強いとは言えない。アニメ第1話の初登場時も、いじめを受けて一方的に殴られていた。

 「悔しかったら殴り返してみろよ」と言ういじめっ子に対し、アルミンは「そんなことするもんか、それじゃお前らと同レベルだ」「僕が言ったことを正しいと認めているから 言い返せなくて殴ることしか出来ないんだろ?」と言い返していた。

 これは幼少期よりアルミンが物理的な暴力の応酬よりも、言葉の持つ力を信じていることを表すセリフである。

 幼い頃からエレンとアルミンは、アルミンの持ってきた本にあった「壁の向こう側の世界」を共に夢見て語り合っていた。しかし実際に「壁の向こう側の世界」である海を目にした時、2人の道は違ってしまったように感じる。

 作品前半ではエレンの力を中心に敵である巨人を倒すという流れだったのが、人対人の戦いがメインとなってからは、「人を殺す」ことへの疑問符が浮かぶようになった。

 そこで物語のカギを握っているのが、アルミンの「話し合い」の精神。アルミンが今まで何度も仲間の危機を、その言葉と頭脳で救ってきたことはご存じの通りだ。

 島外人類の殲滅を実行するエレンに対して、この状況でもアルミンは対話を諦めない。エレンによって精神空間に呼び出された104期生たち。そこで最初に口を切ったのもアルミンだ。

「エレン! 聞いてくれ! 今なら不可侵条約を結んで終わりに出来る! これ以上誰も殺さなくていい!」

 争いの最中においても“話し合う”ことを重視しているからこそ出てくる、実にアルミンらしい言葉である。

 そして争いの最中でも“話し合いのテーブルにつく”こと、つまり対話と交渉の場を設けるということは、現実の戦争においても重要だ。

 “話し合いのテーブル”とリンクするのが、『The Final Season Part 2』第84話「終末の夜」での焚火のシーンである。

 つい最近まで敵対し殺し合いをしていた者同士が、焚火を囲んで話をする。言葉を交わしてこなかった者同士が会話をし、理解を深め、謝罪と許しへとたどり着く姿には胸を打たれた。ハンジの言う通り、この光景を“誰が想像できた”だろうか。さらには、『The Final Season完結編 第二章「罪人たち」』というタイトルにも注目したい。

 ここでコニーやジャンが語るのは、「自分の信じた正義のために人を殺したのはライナーたちも自分も一緒だ」ということだ。つまり、「殺人者の中に英雄は存在せず、皆等しく罪人である」という意味に捉えられる。

 バトル作品でありながら暴力や殺人の全てを“罪”だと断言することは、異質なことではないだろうか。アルミンの暴力ではなくまず“話し合い”を優先するという精神は、今や作品全体の空気感を作っていると言える。

 少なくとも暴力や殺人を否定するという『進撃の巨人』の試みに対して、アルミンが重要な役割を担っているのは確かだ。

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