『ONE PIECE FILM RED』を“ウタLIVE”上映で味わう Adoを起用した革新性を再評価

 2022年8月に公開され、空前の大ヒットを記録した『ONE PIECE FILM RED』が10月20日から1カ月限定でアンコール上映されている。本作はアンコール上映でも週末興行成績で1位に輝き、累計成績は動員1440万人、興収198億7100万円という記録を打ち立てた。本稿では『ONE PIECE』映画の最高傑作とも名高い本作について、改めて何が革新的だったのかを考えてみたい。

 『ONE PIECE FILM RED』は『ONE PIECE FILM Z』(2012年)、『ONE PIECE FILM GOLD』(2016年)と同様に原作者の尾田栄一郎が総合プロデューサーを務めた、いわゆる原作者監修の映画シリーズの最新作。原作とはまったく異なる世界線ではあるものの、原作と密接に関係している背景知識が盛り込まれており、原作ファンはもちろん、まったく『ONE PIECE』に触れてこなかった方でも楽しめるのが同シリーズの魅力でもある。

 本作の舞台は音楽の島「エレジア」。そこではウタと呼ばれる歌姫が世界中の人々を歌声で魅了していた。これまでは素性を隠してきた彼女だったが、初めて世間に姿を見せるライブが開催され、ルフィたちは彼女の姿を一目見るためにエレジアを訪れる。しかし、ウタにはある秘密があった。

 本作は音楽とアニメの融合がテーマになっている。過去には『マクロス』シリーズをはじめ、『戦姫絶唱シンフォギア』や『ギルティクラウン』といった作中で音楽がキーワードになる作品は大ヒットを記録しており、本作はそうした流れの中に組み込まれている。本作が革新的なのは、国内のみならず、世界的にも人気アニメである『ONE PIECE』が物語の中心にライブシーンを添えたことにあるのだ。

 それを引き受けるのが歌い手として登場するウタ。冒頭から作品のテーマにもある「新時代」が流れると、暗闇に包まれたステージからウタが現れ会場は熱気に包まれ、ライブさながらのステージ演出やカメラアングルでステージを展開していく。設定としてはウタは超人系悪魔の実「ウタウタの実」の能力者であり、自分の歌声を聞いた人間の意識を現実世界を模した仮想空間「ウタワールド」に引き込むことができる。この能力は私たちの世界におけるライブに酔いしれるアーティストと観客の構図とも類似しており、まさしくウタは劇中ではファンにとっての“希望”としての描かれ方がされている。

 アクションアニメである『ONE PIECE』において、ライブシーンをどう効果的に取り入れるのかという難しい課題もある中で同作はライブの魅力を最大限に発揮していた。中でも誰にとっても苦しみのない理想郷である“新時代”を作り上げるウタの思いや葛藤が歌詞に落とし込まれた「Tot Musica」を歌うウタのライブシーンは息を呑んでしまうほど美しくもあった。本来であればBGMが担うはずの役割をウタの歌声が担っていたのも斬新で、新たなアニメーションのあり方を提示していたように思う。

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