『大奥』S2前半戦が突きつけたあまりにも理不尽な世界 祈りの“種”が届くことを願って

 NHKドラマ10『大奥』Season2怒涛の3話分の中で、何より印象的だったのは、鈴木杏演じる平賀源内だった。生命力の塊のような溌剌とした彼女の姿であり、いつも楽しそうに弾む、その声だった。彼女の声に導かれるように、Season2の世界に誘われたと言っても過言ではない。

 そして、いつもキラキラと輝く瞳。いつでも彼女は真っ直ぐに夢を見ていた。それはまるで、少年のようで。また、鈴木がかつて演じた『六番目の小夜子』(NHK教育)の頃の彼女の眼差しそのままでもあった。病状が悪化し、「もう見えない」目をもっててしても、なお彼女は、夢を見続ける。雨の音と黒木(玉置玲央)の優しさに隠れて見えない「あまりにも理不尽」な現実とは対極にある、本来ならあったはずの、彼ら彼女らの努力がちゃんと報われ、万事うまくいき、世の中が変わっていく姿を脳裏に描く。

 その姿を見る視聴者の多くもまた、求めずにいられなかったのではないか。共に生きづらさを抱えた、青沼(村雨辰剛)と源内が、残酷な仕打ちを受けても微笑んで見せ、「ありがとう」と人々に言われたことのみを最上の喜びと捉え、死んでいかなければならないという、それこそ「あまりにも理不尽」な現実とは、違う世界線を。

 Season1とはガラリと雰囲気が変わったドラマ『大奥』Season2「医療」編。男女が逆転したパラレルワールドというフィクションの形式を取ってはいるものの、改めて「3代将軍・家光の時代から幕末・大政奉還にいたるまで」という、朝ドラや大河ドラマよりも遥かに長いスパンで人々の物語を描くという試みは、やはりとても興味深い。

 時代ごと、各章ごとに様々な色を見せる本作は、男女の立場が逆転した世界という構造そのものから得ることのできる現代のジェンダー観含めた気づきだけでなく、男女の愛憎と権力闘争、世継ぎ問題の葛藤を描いたかと思ったら、『JIN-仁-』(TBS系)さながらの医療ものとなったり、Season2の現段階までのように、爽やかな青春群像劇になったりと、まさに多種多様。1つの作品にここまでいろいろな要素が加わっている作品もそうないだろう。

 その全てのパートにちゃんと見応えがあるのは、ひとえに、今期放送中の『きのう何食べた? season2』(テレビ東京系)と本作という優れた2作品の原作者である作家・よしながふみによる原作そのものの素晴らしさと、2025年NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で同時代を再び扱うことが予定されている脚本家・森下佳子の手腕によるもの。さらには俳優陣の好演ゆえに違いない。

 また、物語の中盤を過ぎてくると、特にSeason2が吉宗(冨永愛)の死からおよそ20年後からスタートするのもあり、大奥の御右筆部屋に置いてある『没日録』という形で可視化される「視聴者がこれまで見てきた物語」を、その時代を生きている人々は知らないし、特に関心もないという描き方がされているのも面白い。誰もが自分たちの置かれている状況になぜなったのかに興味がなく、「皆様が気になるのは、上様のお好みや、どなたに取り入ればうまく過ごせるか」だと第11話において黒木は言う。でもそれは、今、自分の人生を生きることで精一杯で、全体を見渡すことがない、現代人にも言えること。歴史という大きな流れの中に自分たちはいるのだということを、改めて考えさせられる。だから余計に思うのだ。この多種多様な物語が全て出揃った果てに、一体どういう全体像が見えてくるのだろうと。

関連記事