『大奥』S2前半戦が突きつけたあまりにも理不尽な世界 祈りの“種”が届くことを願って

『大奥』S2が突きつけた理不尽な世界

 このSeason2の冒頭3話分、第11話から第13話の何が優れていたかと言うと、性別や身分の違い、ハーフであること、あるいは大奥の内と外の隔たりなく、皆が共に「赤面疱瘡」撲滅という1つの大きな目標に向かい、集う姿に尽きるのではないだろうか。

 青沼の講義部屋は、さまざまな人を受け入れた。田沼意次(松下奈緒)だけでなく、10代将軍・家治(高田夏帆)のバックアップに加え、御台・五十宮(趙民和)も仲間に加わり、源内をはじめ、大奥の外部より優れた研究者たちも集った。初めて見る「異人の風貌」に最初こそ人々は恐れおののいていたが、気づけば誰もが青沼を慕っていた。

 この全てが同じ並びで描かれる世界線において、「ありがとう」のエピソードもまた、さまざまだった。人々からの感謝の声を、彼らの生きた証とした青沼と源内。一方で、家治が、「あんなにようしてやった」ことの「礼」つまり見返りのなさに憤り、青沼を「バケモノ」と叫んだあたりから、保たれていた均衡は崩れ、つかの間の平穏は脆く崩れていく。

 黒木は、雨の中、「女たちよ」と叫んだ。「江戸城にいる女たちよ」。その頂点に立つのは、あえて息子・家斉(中村蒼)を男性将軍として立てる形で実権を握ることになるのだろう、仲間由紀恵演じる治済。治済の目は、源内の活き活きと楽しそうに輝く目とは対照的に、しっとりと黒く艶やかだ。そしてその不穏な微笑みは、見るものを戦慄させる。人々の間の壁を越え、分け隔てなく描かれようとしていた物語は、ここにきてあからさまに男性と女性の対立構造を描き出した。

 さて、そこからどんな物語が展開していくのか。理不尽な形で断ち切られた青春群像劇も、彼ら彼女らの命も、間違いなく大きな意味がある。青沼が、後に家斉となる少年に「人痘接種」を施したこと。その時にかけた優しい言葉がある種の「種」となり、彼の中で育ち、成長した家斉の夢の中に現れたこと。それだけが、現段階でわかる、唯一の希望である。

■放送情報
ドラマ10『大奥』Season2
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
出演:
【医療編】
鈴木杏(平賀源内)、玉置玲央(黒木)、村雨辰剛(青沼)、岡本圭人(伊兵衛)、中村蒼(徳川家斉)、蓮佛美沙子(御台・茂姫)、安達祐実(松平定信)、松下奈緒(田沼意次)、仲間由紀恵(一橋治済)

【幕末編】
古川雄大(瀧山)、愛希れいか(徳川家定)、瀧内公美(阿部正弘)、岸井ゆきの(和宮)、志田彩良(徳川家茂)、福士蒼汰(天璋院・胤篤)

原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
音楽:KOHTA YAMAMOTO
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社

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