劇場版『ONE PIECE』が問い続ける“正義”のあり方 ゼットの圧倒的な強さに魅了される

 だからといってゼットには従えないし、絶対に従ってはいけないことも、映画の中で繰り広げられる惨劇が教えてくれる。多大な犠牲を払ってでも貫かれようとしている絶対的な正義と、少しずつの犠牲の上に維持され続ける相対的な正義のどちらを選ぶべきなのか。どちらかを選ばなくてはならないのか。他に選べる道があるのか。そんな迷いを吹き払うように、ルフィが拳に乗せてゼットも海軍もぶっ飛ばしていく展開に、これだと納得したくなる気持ちも浮かぶ。

 もっとも、それは物語としての結末でしかない。現実の世界で続く正義の遂行とそれに伴う犠牲の連鎖が、ゼットのような純粋な正義への憧れを抱かせ続ける。最後の力を振り絞って戦うゼットに海兵たちが涙を流し、その涙に観客も共感を覚えてしまうところに、ゼットという存在が持つ強烈な魅力がある。『ONE PIECE FILM Z』が2012年の公開から11年が経った今も、強い支持を集め続けている理由はそこにある。

 アクション映画としての面白さももちろん大きい。圧倒的な強さを誇り、麦わらの一味や現役の海軍本部大将を相手にしても一歩も引かないゼットの戦いぶりと、そんなバトルシーンを迫力は、のちに『ドラゴンボール超 ブロリー』で発揮され、そしてテレビアニメ『ONE PIECE』のニカ覚醒を描いた第1071話「ルフィの最高地点 到達!“ギア5”」を演出した長峯達也監督ならでは。観ておいて絶対に損はない。

 ゼットを演じる大塚芳忠のイケオジ声も魅力的で、NEO海賊団に所属するアインも彼の正義感だけでなく、強さと優しさに満ちたゼットの声に心酔してしまっているのではないかと思えてくる。そのアインが繰り出す「モドモドの実」によって12年分若返ったナミやロビンの変化をはじめ、劇場版ならではのキャラクターたちの姿を楽しむこともできる。

 それでもやはり、観終わったあとに残るのはゼットが貫こうとした正義の是非だ。多大な犠牲を伴うその正義に憤りを覚えつつ、『ONE PIECE FILM RED』でウタが遂行しようとしている正義にも改めて触れ、どちらも選ばなかったルフィの拳がすべてを粉砕するのを確認した上で、どうすればゼットが望み、ウタが願った正義が遂行され、安寧が満ちあふれた世界が訪れるのかを考えたい。

■放送情報
『ONE PIECE FILM Z』
フジテレビ系にて、10月21日(土)21:00~23:10放送
原作・総合プロデューサー:尾田栄一郎(集英社 週刊『少年ジャンプ』連載)
脚本:鈴木おさむ
監督:長峯達也
オープニングテーマ:中田ヤスタカ(capsule)
W主題歌:アヴリル・ラヴィーン
©尾田栄一郎/2012「ワンピース」製作委員会

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