『大奥』医療編はまるで『プロジェクトX』 2つの“人間ドラマ”が絡まり合う見事な構成に
しかし、それだけに終わらないのが、本作『大奥』の凄みであり面白さなのだった。Season1の中心人物であった第8代将軍・吉宗(冨永愛)の意志を受け継ぎ、赤面疱瘡撲滅に向けた具体的な方策の陣頭指揮を執る田沼意次。彼女の周囲には、もうひとつ別の“人間ドラマ”が渦巻いているのだった。それは、奇しくも同じ吉宗が遺したものーー吉宗の孫たちによる熾烈な権力争いだ。現将軍・家治は、家重(三浦透子)の長女、すなわち吉宗の孫にあたる。しかし、Season1を思い出してほしい。家重には、宗武と宗尹という2人の聡明な妹がいた。その2人を、それぞれ「田安徳川家」「一橋徳川家」として独立させたのも、吉宗だったのだ。
その後、家治の妹・重好を当主として興された「清水徳川家」を加え、「御三卿」ーー家康の息子たちの家系である尾張、紀伊、常陸の徳川「御三家」に次ぐ家格である「御三卿」と称されるようになった、江戸の3つの徳川家。その一橋徳川家の現当主が、宗尹の子であり、同じく吉宗の孫にあたる一橋治済(仲間由紀恵)なのだ。
一方、田安徳川家の初代当主である宗武の子であり、その聡明さによって一時は将軍候補となることを期待されながらも、陸奥白河藩に養子に出されるなど、不遇をかこつ松平定信(安達祐実)。彼女もまた、吉宗の孫のひとりなのだった。現状を良しとせず、「天下の名君・吉宗の孫」というプライドを胸に、虎視眈々と権力の座を狙う彼女たち。その標的は、あまり政治の表舞台に立つことのなかった現将軍・家治ではなく、彼女の抜擢により側用人から老中へと異例の出世を遂げ権勢を振るう田沼意次であり、やがてその矛先は彼女が指揮を執る、源内、青沼、黒木ら、大奥における赤面疱瘡対策班の面々に向けられてゆくのだった。
亡き将軍・吉宗の悲願である赤面疱瘡撲滅というひとつの大きな“ドラマ”の中に、源内、青沼、黒木のトライアングルを中心とした“人間ドラマ”と、「吉宗の孫」である治済、定信と、彼女たちの標的となる意次というトライアングルを中心とした“人間ドラマ”が複雑に絡まり合った『大奥』Season2「医療編」。しかしながら、ある人間のリーダシップによって、ひとりまたひとりと優秀な人材が集まり、彼/彼女たちの熱意とチームワークによって、次第にその謎が解き明かされてゆくーー同局のかつての人気番組『プロジェクトX 挑戦者たち』をどこか彷彿とさせるような胸躍る“人間ドラマ”は、後者の“人間ドラマ”と、そこから生じる“理不尽な暴力”によって、早くも大きな局面を迎えることになる。
ちなみに、原作漫画の中で、個人的に胸を搔きむしられるどころか、思わず慟哭してしまったシーンがあるのだが……予告編を観る限り、第13話で、どうやらそのシーンが描き出されてしまうようだ。土砂降りの雨の中、天を仰いだ黒木が放つ言葉とは。開始早々、正直初見ではすべてを把握することが難しいほど、さまざまな物事や人物、そしてそれぞれの思惑が、猛スピードで動き始めている『大奥』Season2「医療編」。その最初のクライマックスを、どうかお観逃しのないように。
■放送情報
ドラマ10『大奥』Season2
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送
出演:
【医療編】
鈴木杏(平賀源内)、玉置玲央(黒木)、村雨辰剛(青沼)、岡本圭人(伊兵衛)、中村蒼(徳川家斉)、蓮佛美沙子(御台・茂姫)、安達祐実(松平定信)、松下奈緒(田沼意次)、仲間由紀恵(一橋治済)
【幕末編】
古川雄大(瀧山)、愛希れいか(徳川家定)、瀧内公美(阿部正弘)、岸井ゆきの(和宮)、志田彩良(徳川家茂)、福士蒼汰(天璋院・胤篤)
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
音楽:KOHTA YAMAMOTO
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社