日本のエンタメ界における大沢たかおの存在感 『沈黙の艦隊』『キングダム』とハマり役続く

 日本のエンターテインメント界における大沢たかおの存在感がハンパない。

 もちろんこれは、いまにはじまったことではない。30年近い俳優としてのキャリアを持つ大沢は、つねに最前線に立ち続け、いくつもの映画やドラマをヒットに導いてきた。多くの作り手や観客にとって、もっとも信頼できる俳優の一人だろう。

 しかし、ここ最近はこれまでと大きく印象が異なる。ハマり役にして当たり役を次々と得て、“映画というエンターテインメント”そのものの力の増幅を、彼が担っているように思うのだ。主演を務めた『沈黙の艦隊』はまさにそんな一作である。

 本作で大沢が演じているのは、潜水艦の艦長・海江田四郎。彼は日本初の原子力潜水艦を奪って逃亡し、核ミサイルという脅威を武器に、クルーとともに世界と対峙する男だ。大胆不敵などといった言葉には収まりきらないアクションを起こすわけだが、どんなときでも冷静沈着。そこには過去の経験に裏打ちされた絶対的な自信があるのだろう。笑みさえ浮かべている。

 作劇や演出によるところが大きいのはもちろんだが、本作が観客に強いる緊張感には相当なものがある。次のシーンでどんなことが起こるのかはそれとなく予想できるものの、それがどんなふうに起こるのかまでは掴めない。その理由は海江田というキャラクターにある。彼が次から次へと起こす大胆で不敵なアクションは、基本的に一定のトーンを維持したままだ。演じる者によってはキャラクターだけでなく、作品そのものをも単調なものにしてしまい、やがて観客を退屈させるだろう。が、大沢はそんな状態には決して陥らない。

 絶やすことのない微笑の中にもわずかな表情の動きがあり、注視してみればその変化に気がつくだろう。そしてこれは声に関してもいえること。落ち着き払っていると感じる声音も、注意して聞けば抑揚があるのが分かるはずだ。俳優が役を演じることでもっとも端的にキャラクターが表れるのは表情と声である。ここの操作の細やかさによって、劇中の登場人物は豊かさを得るわけだ。けれども海江田のような泰然とした存在は、一面的なキャラクターだと受け取られかねない。つまり、ただ人間離れした人物なのだと。

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