『ザ・ホエール』の忘れられるべきではない一面 メイキングが照らし出すもうひとつの愛
原作となった同名演劇の戯曲を書き、またその上演を観たアロノフスキー監督からの要請で映画化シナリオも担当したサミュエル・D・ハンターは、『“人間は すばらしい” 「ザ・ホエール」 メイキング』の中で次のように語っている。
「自分の体験をもとにチャーリーを描いた。物語の舞台は僕が育ったアイダホ北部の町だ。
1990年代に宗教系の学校に通っていて、同性愛者としてとても複雑な経験をした。信仰との葛藤に苦しんで、うつ状態になり、やがて過食でつらさを紛らわすようになった(画面上には、肥満化した少年時代のサミュエル・D・ハンターの写真がインサートされる。インタビューで発言する現在の彼はスリムな姿に変わっている)。周囲の支えでそこから抜け出せたが、抜け出せずに苦しみ続ける人もいる。そういう人の物語を書きたかった」
チャーリーを生み出した劇作家ハンターの同性愛者としての苦悩(とくに地方における未成年者の)がにじむ発言である。そうした心性から逆照射する形で『ザ・ホエール』を見つめ直すならば、チャーリーとアランの愛は不倫なのだから罪は免れないのは当然としても、そこに同性愛であるがゆえ、宗教的な道徳観念によって過剰なフィルターが被せられ、罪の意識が必要以上に増幅されてしまった積み重ねの結果としても、アランの若すぎる死とチャーリーの272キロという現在の変わり果てた姿がある。
筆者は本稿の最初の段落で「最期の5日間を描くこの映画は、にもかかわらず悲劇ではない」と書いた。それはその通りだよと改めてうなずくのと同時に、実はそうでもないよと前言撤回すべき側面もある。映画『ザ・ホエール』は、チャーリーとアランの同性愛が二重の側面から否定された厳然たる事実を、ブラインドなオープンスペースにしまい込む道を選んだ。しかし、この映画は放置された面が残されていること、そして、主不在の無人の部屋にかけがえのないものがたくさん詰まっていることを、言外にほのめかしている。その言外のかけがえのなさは決して見落とされるべきではないように思われる。
■リリース情報
『ザ・ホエール』
10月4日(水)発売
<Blu-ray>
価格:5,280円(税込)
<DVD-BOX>
価格:4,290円(税込)
【Blu-ray特典】
<映像特典>
・特報(30秒)
・予告編(60秒)※DVDにも収録
・予告編受賞ver(35秒)
・WEB予告(33秒)
・TV SPOT(15秒)
・“人間は すばらしい” 「ザ・ホエール」 メイキング(24分21秒)
・特殊メイク映像(24秒)
・キャストインタビュー(7分13秒/ブレンダン・フレイザー&ホン・チャウ&セイディー・シンク)
・来日記者会見
・来日舞台挨拶
<仕様特典>
・アウタースリーブ
出演:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン
監督:ダーレン・アロノフスキー
脚本・原案:サム・D・ハンター
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
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