『らんまん』は男性主人公朝ドラの完成形に 目を背けなかった“政治と人間関係”のしがらみ

『らんまん』は男性主人公朝ドラの完成形に

 NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『らんまん』が9月29日に最終回を迎える。

 長田育恵が脚本を担当した本作は、「日本の植物学の父」と呼ばれた牧野富太郎をモデルとした植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)が主人公のドラマで、日本の近代史を万太郎の目線で追いかけることで、政治と学問の関係を照らし返す物語となっていた。

 物語は幕末から始まり、造り酒屋「峰屋」の跡取りに生まれた万太郎が、植物の世界にのめり込んでいく姿が描かれる。小学校を中退となった万太郎は独学で植物の研究を続け、やがて上京。東京大学植物学教室に出入りするようになった万太郎は、日本の植物を網羅した植物図鑑を作りたいと考えるようになる。

 経済的に生活は豊かとは言えなかったが、万太郎は寿恵子(浜辺美波)と結婚し、順風満帆な人生を送る。しかし、ムジナモの論文を発表した時に植物学教室教授の田邊彰久(要潤)の名前を入れなかったことで、田邊教授の逆鱗に触れ、植物学教室を出禁となってしまう。

 序盤は、独学で身につけた植物の知識と植物画の技術、何より、天性の人柄の良さによって、多くの人々に愛される万太郎の姿が描かれた。今、振り返るとご都合主義だと感じることも少なくなかったが、演じる神木隆之介の魅力もあってか、物語に違和感はなく、優等生的と言われる朝ドラヒロインの人物造形を男性主人公に置き換えた朝ドラとして楽しめた。

 しかし、植物学分室を出禁になって以降、娘の園子の死、峰屋の廃業といった不幸が万太郎の身に立て続けに起こる。一縷の望みを託していたロシアへの渡航も、万太郎を研究者として高く評価していたマキシモヴィッチ博士が急逝したことで頓挫してしまう。

 それでも万太郎は研究を続けるのだが、追われた人間に対し、世間は冷たかった。小学校中退で正規のルートを通らずに東大に出入りするようになった万太郎に対し、教授や学生たちも初めは冷たかったが、次第に万太郎を受け入れるようになり、立場を超えて人間はわかりあえると信じることができた。しかし、物語が中盤を迎えたところで視聴者は「学歴の壁」という現実を、改めて思い知らされることとなる。

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